映画では描き切れないドラマティックな生涯とは?『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』インタビュー映像
<コメント>
●町山智浩(映画評論家)
「『シビル・ウォー アメリカ最後の日』でキルスティン・ダンストが演じた戦場カメラマンのモデルがこのリー・ミラー。彼女の実人生はどんな映画よりも波乱万丈だ。19歳の頃、ニューヨークの街角でスカウトされ、いきなり『VOGUE』誌のファッションモデルになり、パリに渡ってヌード写真をマン・レイと共作し、シュールレアリスムのミューズと崇められ、第二次大戦では従軍カメラマンとして最前線を駆け抜け、世界で初めてホロコーストの惨状を暴く…。だが、リーは過去を語ろうとしなかった。その凄まじい経験をこの映画で目撃する!」
●田島陽子(英文学、女性学研究者/元法政大学教授/元参議院議員)
「リー・ミラーは初志を貫き、フォトグラファーとして素晴らしい仕事をした。彼女がレンズを通して見た世界は、人類の敵はナチス。そして、女性の敵は男性を中心として回る、この世界だった。それはいまでも変わらない」
●伊藤亜和(文筆家)
「映画はモデルとしてのキャリアを終え、写真家としての人生を歩み始めたリーの姿から始まる。私がいままさに進むべきところを探している、身体の最も美しい頃を終えたあとの人生についてだ。見えない誰かに、なにか“ツケ”を払わせられているような、汗水を流してした仕事が軽んじられているような感覚がいつもしている。多かれ少なかれ、女が社会に背負わされるこの呪い。戦場を走るリーの身体を掠める弾丸が、私にはそれと同じように見えた。ひたすらに事実だけを追いかけた彼女の仕事が紛れもない偉業であったことを、決してドラマティックではないこの映画の重厚さが証明する。使命を背負って走る姿は、こんなにも美しいのだ」
●長島有里枝(写真家)
「リー・ミラーは、マン・レイのミューズではなく写真家だった。南仏で友人たちとヴァカンスを過ごす彼女は、ヒトラーのニュースを恐れつつもアートで世界は変えられると信じていた。同じように信じる自分に戸惑い、それって体のよい言い訳じゃないのかと自問する。世界はいま、彼女が生きた時代に少し似ている。写真家として彼女のようにはきっとできない。でも、考えるのを諦めない彼女の勇気を持つ人でありたいと思う」
●ISO(ライター)
「男たちが始めた戦争で女たちは悲劇に見舞われ、さらには女の手で戦争の真実を世界に届けることすら阻まれる。ミラーはそんな男社会と戦場、2つの場所で戦わなければならなかった。そこで自身も傷だらけになりながら、戦禍とゼロ距離で向き合い続けたからこそ撮ることができた市井の人々の凄惨な痛み。戦争とはなにかを忘れないために世界はそれを目に焼き付けるべきだった。この映画はあまりに長いあいだ見過ごされてきた彼女の偉業を、人々の心に刻み直す記念碑となることだろう」
文/平尾嘉浩