妻夫木聡、主演映画『宝島』完成報告会見で宣伝アンバサダー就任を発表「映画の力を信じています!」
映画『宝島』(9月19日公開)の完成報告会見が5月5日、丸の内TOEIにて開催され、主演の妻夫木聡、共演の広瀬すず、窪田正孝、大友啓史監督が登壇した。
原作は真藤順丈の同名小説。戦後の沖縄を舞台に歴史の陰に埋もれた真実を描き切った本作は、第160回直木賞をはじめ、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞し栄えある三冠に輝いた話題作だ。
2019年の原作権取得から6年。2度の撮影延期の危機も乗り越えながらも「いまこそ届けるべき物語」として情熱を注ぎ続けた奇跡のプ ロジェクトとしてついに完成。誰も見たことがないアメリカ統治下の沖縄を舞台に、混沌とした時代を全力で駆け抜けた若者たちの姿を、圧倒的熱量と壮大なスケールで描く、衝撃と感動のエンタテインメント超大作が完成した。いつか「でっかい戦果」を挙げることを夢見る幼なじみのグスクを妻夫木、ヤマコを広瀬、レイを窪田、彼らの英雄的存在でありリーダーとしてみんなを引っ張っていく一番年上のオンを永山瑛太が演じている。イベントでは残念ながら会見欠席となった永山からのメッセージ動画も上映された。
完成した映画を観て最初に湧き上がったのは「精一杯生きていかなきゃいけない」という想いだったという妻夫木。本作で舞台となったコザは主演映画『涙そうそう』(06)の撮影地でもあり、自身にとって特別な場所と話し、「僕自身、縁のあるお話だと思いました」と微笑み、公開から約20年経ったいまでも、コザの人々との交流は続いており、親友もいると明かす。「台本を読んだ時にはどこか運命的なものを感じました。(沖縄には)いまもなお続く問題はあります。言葉にならない現地の声を芝居に変えて表現していかなければならない、みたいな使命感を感じました」と力を込め、親友2人が役作りのために連れて行ってくれた場所で「勉強で知ることよりも大切な声が入ってくるというか。一番感じなきゃいけないものを、最初に2人がくれたことが支えになりました」と感謝していた。
試写の感想は「ドッといろいろなものを食らいすぎて、いい意味ですごく疲れました」と話した広瀬。「私も沖縄(を描いた)作品に携わったことがあります。沖縄にある問題を体現、表現することは覚悟のいること」とし、原作を読んだ時にはヤマコに「男性の多いなかで、太陽のような存在だと感じた」と振り返る。「食らいついて生き抜いてやるぞ!という姿がまぶしかった。これを(芝居で表現)できたらいいなと素直に思いました。すごく苦しかったし、難しかったけれど、濃厚な毎日を過ごしていくなかでもいろいろな感情に出会えて、お芝居に対してなかなか出会えなかったエネルギッシュな感覚をこの現場で体験できたと思うシーンがありました」としみじみ。「もがきながら演じさせてもらえたのは、とてもうれしい経験です」と充実感を滲ませていた。
「死の概念がいまとは違う感覚なのかもしれないと感じた」と映画の感想を伝えた窪田は「次の瞬間命を奪われるかもしれなかったり、(死と)隣り合わせにあるからこそ、全力で生きているからこそ、客観的に観た時に、生きている魂のようなものを感じることが多かったです」とコメント。演じたレイは永山演じるオンを兄に持つことについて「レイというよりもオンの弟という共通認識が(周囲に)ある。そこにジレンマを感じていて、偉大なる兄へのコンプレックスを抱えながらも振り回されていた」とレイの立場を解説。「暴力シーンも多いけれど、暴力がしたくてしていたわけじゃない。この時代を生きているというのはそういうこと。誰とでもいつでも会話ができるいまの時代とは違う。便利ゆえに失って気づくことがある。役者という職業を通じて、原点に帰るというか、人間がここまで荒々しく生きていけるものというのを感じました」と演じることで感じた率直な気持ちを明かしていた。
この時代をきちんと描くための大きなポイントは美術だったと語った大友監督。「嘘をついちゃいけないところがたくさんある。資料や当時のことを調べるのは簡単だけど、実現するのが一番難しい舞台。そこを嘘をついたら役者を(なかに)置くことはできない」と熱弁し、だからこそ、アメリカ統治下の沖縄、琉球のローカル文化と車や音楽などをはじめとするアメリカの文化を、基地をいかに表現するのかということにこだわりぬいた作品だとアピールしていた。また自身の(監督としての)歴史ではなかなかないことだと前置きし、「5日間用意していたシーンを2日で撮った!」とみんなの気持ちや気合いが乗って、一連のシーンをほぼ一発で撮れたこともあったと胸を張っていた。
このシーンについて広瀬は「一瞬で終わったけれどやり切った感があった」話し、窪田は「みんなが正義。正義同士がぶつかるからどうしようもない。そこにプラスの感情も乗る。(大友監督が)どう撮るのかと思ったけれど一瞬で終わりました」と、現場の熱を伝えると、妻夫木はできあがったシーンを観て「いろいろな感情が入り混じって、混沌としたなかで流れていく様(さま)に痺れました。大友さんがやりたいことがわかって痺れました…」と大きく頷く。大友監督は「きっと沖縄でなくてもあの時代ならそうなった(というシーン)。そこには感情のごった煮がある。それがどこに向かっていくのかはわからない。感情のうねりを作り、現場を混乱させること、どうカオスに持ち込むのかがテーマでした」と現場作りの裏話も披露していた。
劇中で英雄的存在のオンを演じる永山について、「何回共演しただろう?という仲。彼がオンちゃんを演じると聞いただけで安心でしたし、魅力的なオンちゃんを演じてくれました。だから、彼の影を追い、支えとして生きる希望として演じることができました。とても感謝しています」と話した妻夫木。広瀬もオンについて「どう見てもヒーロー。かっこよくてついていきたくなるような姿をたくさん(演じながら)見ていました。瑛太さん自身からもそれをずっと感じていて、完成した映画を観て、(オンを)追いかけて、追い続けてよかったと思いました。そういうオンちゃんが存在していました。ご一緒してうれしかったです」と大絶賛。窪田も「瑛太さんじゃなきゃできなかった、偉大なるオンちゃん。沖縄で誰よりも大きい背中で、誰よりも風のように駆け抜けているあの姿はずっと残っています」とそろって永山の存在感に感謝する場面もあった。
イベントでは妻夫木が本作の「宣伝アンバサダー」就任も発表された。「映画の力を信じています。観て『あー、よかった』で終わってほしくない。(映画には)底力があるんじゃないかな。だからこそ、キャンペーンという形で全国の方に、直に持っていきたいと思っています。過去はなかったことにはならない、前に進むしかない、その原動力にはなると思っています」とアンバサダーとしての意気込みも語った。
取材・文/タナカシノブ