A24の最新問題作『異端者の家』ブライアン・ウッズ&スコット・ベック監督が語る製作秘話。今後のトム・クルーズに期待すること!?

A24の最新問題作『異端者の家』ブライアン・ウッズ&スコット・ベック監督が語る製作秘話。今後のトム・クルーズに期待すること!?

布教のために森に囲まれた一軒家を訪れた2人の若きシスターたちが、気さくに見える男性の家に足を踏み入れたことから恐怖の体験をする、A24製作のサイコスリラー映画『異端者の家』が公開中だ。本作の監督を手掛けたのは、『クワイエット・プレイス』(19)の脚本コンビ、ブライアン・ウッズスコット・ベック。『クワイエット・プレイス』の設定から一転、ヒュー・グラント演じるミスター・リードがしゃべりまくる会話劇としても秀逸で、キャリアを更新する怪演を見せている。

本作で俳優としての新たな一面を見せつけた名優ヒュー・グラント
本作で俳優としての新たな一面を見せつけた名優ヒュー・グラント[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

MOVIE WALKER PRESSでは、2人の監督に独占インタビューを敢行。5000字を超えるロングインタビューとして『異端者の家』劇場用プログラムにも収録されているので、本記事と合わせて読むことで、より本作の立体的な理解が得られる“完全版”となるはずだ。

「撮影現場でヒュー・グラントにコーヒーを運ぶだけの仕事を喜んでやっていたと思います(笑)。そのくらい、とにかく”映画に関わっていたい”」(ウッズ)

――2人組の監督というとどちらかが脚本家寄り、どちらかが演出家寄りだったりすることも多いですが、あなたたちはどちらも同じように脚本にも演出にも深くコミットされているように見受けられます。実際のところ、2人の間にはどのような役割分担があるのでしょうか?

ブライアン・ウッズ監督(以下、ウッズ)「すべてにおいて共同で行っていると思ってもらってかまいません。2人とも映画が大好きなので、脚本を書くことも、監督をすることも、こうして日本のジャーナリストとZoomで話をすることも、映画に関するすべての過程を楽しんでいます。もし、脚本や監督をやらせてもらえなかったとしても、撮影現場でヒュー・グラントにコーヒーを運ぶだけの仕事を喜んでやっていたと思います(笑)。そのくらい、とにかく”映画に関わっていたい”と常に思ってきました」

スコット・ベック監督(以下、ベック)「僕たちは好みや感覚がとても似ているので、脚本作りから絵コンテ作成、俳優とのやりとりに至るまで、すべての工程がコラボレーションなんです。完成した映画に反映されているアイデアの多くも、僕とブライアンが何度も意見を出し合って生まれたものです。僕がアイデアを出すと、ブライアンがそれをより良くしてくれて、それを聞いた僕がさらに良くしようとする――そうやって、どんどんアイデアが洗練されていくんです。それは、最初のアイデアの段階から、最終的なサウンドミックス、つまり音響効果の最終調整をしている段階まで、映画制作のすべての工程に言えることだと思います」

――ヒュー・グラントは今作のミスター・リード役における新しいチャレンジで賞賛を集めたわけですが、映画の世界にはタイプキャストに閉じ込められてそのポテンシャルを発揮しきれていない役者が他にもたくさんいると思います。そうした映画界の構造についてどう思いますか?

ヒュー・グラントは、ロマコメのイメージを自ら破壊し、ミスター・リードという役柄を作り上げた
ヒュー・グラントは、ロマコメのイメージを自ら破壊し、ミスター・リードという役柄を作り上げた[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

ベック「そうですね。僕たちは全体的に、映画業界には想像力が欠けていると感じています。それは、公開される映画の多くが、もう何度も観たような内容だったり、俳優が決まったタイプの役に押し込められてしまうことにも表れていると思うんです。ヒュー・グラントは、僕たちにとってはもともとロマンティック・コメディのスターという印象が強かったんですが、キャリア初期にはもっとニュアンスのある、非常にドラマティックな役を演じていました。例えばケン・ラッセルの『白蛇伝説』でのヒュー・グラントは、『ノッティングヒルの恋人』や『ラブ・アクチュアリー』のヒュー・グラントと全然違います。彼にはまだまだたくさんの引き出しがあるんです。だから、ここ10年ほどの間に、これまでのロマコメ的イメージを解体していくグラントの姿を見るのは、ファンとしてすごくエキサイティングでした。ちょっと意識したのは、ポール・トーマス・アンダーソンが『パンチドランク・ラブ』でアダム・サンドラーをコメディ作品のイメージから解き放ったことですね。あれは優れた映画監督ならではの、すばらしい仕事でした」

――ポール・トーマス・アンダーソンと言えば、『マグノリア』(99)でのトム・クルーズの役も印象的でしたよね。

ウッズ「そうそう。ああいうのをもっと見たいんです。でも、トム・クルーズはあの最高なセックス伝道師の役をやってから、あまりにも長く間が空いてしまいましたね。僕たち2人とも、トム・クルーズの大ファンなんですよ。トムにはたくさんの表現の幅があるのに、ここしばらくは『M:I』モードが続いてますよね。だからまた、トムがイカれた役をやるのを見てみたいですね」


ベック「最近だと、グレン・パウエルもすごく可能性に溢れていると思います。いまや大スターとなりましたが、彼も主役タイプからキャラクター俳優的な方向に広げていったらおもしろいんじゃないかとずっと思ってます」

宣教に訪れたシスター2人には思いもよらぬ展開が待ち受けていた…
宣教に訪れたシスター2人には思いもよらぬ展開が待ち受けていた…[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

――『異端者の家』の物語の発端となるのはモルモン教の訪問布教ですが、最近の作品だと『ロングレッグス』でも同じく訪問布教が描かれていました。日本人から見ると、訪問布教と銃社会という、どう考えても相性が悪いとしか思えない2つの問題がアメリカの社会で両立していることが不思議でならないのですが。

ベック「そうですね…これは本当に興味深い質問で。他の多くの国も同じでしょうけど、アメリカには深い分断があって、その分断の中でも最も支配的なのが宗教の問題なんです。今作で題材としたモルモン教のユニークな点の一つが、宣教師を世界中に送り出して、一軒一軒家を訪ね歩きながら信仰を広めるという点です。以前、僕たちも映画を撮影する際、撮影の許可をもらうために、一軒一軒ドアをノックして回ったことがあるんですけど、ドアの向こうには誰がいるかわからない。特に僕たちが住んでいたアイオワのようなアメリカ中部の地域では“立ち入り禁止”とか“犬に注意”とか、時には銃のアイコンが描かれた看板まであって、とても恐怖心を覚えたものです。モルモンの宣教師たちは、そうした恐れの中で、毎日布教している。それを勇敢と見るべきなのか無謀と見るべきなのかは人によって違うと思うんですが。世界的にみてもとてもユニークな宗教ですよね」

ソフィー・サッチャーがシスター・バーンズを、クロエ・イーストがシスター・パクストンを演じた
ソフィー・サッチャーがシスター・バーンズを、クロエ・イーストがシスター・パクストンを演じた[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

ウッズ「僕たちがすごく大切にしたかったのは、モルモン教の宣教師に初めて出会った時に感じた空気感をとらえることでした。モルモン教徒は、ポップカルチャーのなかで、あるいはテレビのなかで、これまであまり真剣に受け止められず、ナイーブな人たちで、あまり賢くない人たちのような描かれ方をされることが多かったんです。でも、僕たちは実際に出会ってみて、とても頭が良くて素敵な人たちだと感じました。なので、シスターたちの知性を終始感じられるように描きながら、全体のプロットを観客が思うように進めて、それを最後に覆すような構成にしました」

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