A24の最新問題作『異端者の家』ブライアン・ウッズ&スコット・ベック監督が語る製作秘話。今後のトム・クルーズに期待すること!?
「観客と一緒に劇場で体験したくなる映画を作ること。それが彼らを揺さぶり、怖がらせ、考えさせるものであれば最高ですね」(ウッズ)
――本作ではThe Holliesの「The Air That Breathe」がとても象徴的に使われてますが、驚いたのはその曲との訴訟問題があったRadioheadの「Creep」まで使われていることです。よく使用許可が下りましたね?許可を得る上でなにかカラクリがあったのでしょうか?
ウッズ「おもしろい質問ですね。あのシーンを書いた時の話なんですが…」
ベック「まず、あのシーンは35分、つまり35ページ分もあるんです」
――作品の中核とも言える部分ですね。
ウッズ「そうなんですよ。だから、あの音楽のシーンやモノポリーのシーンで本物を使えるかどうかが、本当に不安で仕方なかったんです。もしかしたら、僕たちのキャリアの中で最高のシーンを書いたのに、それが日の目を見ないんじゃないかって。実際に許可が下りるまでは想像するだけで落ち込みました。でも、この映画には本当にすばらしいプロデューサーたちがついていて、なかでもステイシー・シェアは、クエンティン・タランティーノの映画を数多く手掛けてきた人で、著作権や音楽のクリアランスの取り方について熟知しているんです。彼女が奔走してくれて、公開の直前まで返答を待っていてドキドキしたんですけれども、その2曲に関してはなんとかクリアランスを取ることができました。ラナ・デル・レイに関しては結局返答がなかったので、曲は使えなかったんですけど」
ベック「どうしてラナ・デル・レイは返事をくれなかったのか。それがいまも残っているこの作品の唯一の“謎”です(笑)」
――現在のアメリカの映画界では大作とインディペンデント作品の間にある中間的な作品、つまり、まさに『異端者の家』のような作品が成り立ちにくくなっているとよく言われてます。その状況に対して、あなたたちはどのような対処法を考えてますか?
ベック「重要な問いですね。僕たちは映画館という場所が大好きなんです。知らない500人と一緒に映画を観るという体験こそが夢だし、特に『クワイエット・プレイス』の脚本を執筆してその夢が実現して以来、”ビッグスクリーンで観るべき映画”を作るということを意識してきました。だから僕たちの解決策——これは業界全体にとっての解決策というわけではないですが——は、脚本を書くたびに『これは劇場で観たくなる』と観客が思うような作品にすることなんです。ポスターや予告編を見て『これ観たい、しかも映画館で観たい』と感じてもらえるものを目指しています。特にジャンル映画、例えばホラーやスリラーは、そうした体験にぴったりで、僕たちが活動しているのもまさにそのジャンルです。それが僕たちにとっての今後の一つの道だと思っています――人々が観に行きたくなる映画、観客と一緒に劇場で体験したくなる映画を作ること。それが彼らを揺さぶり、怖がらせ、考えさせるものであれば最高ですね。でもまずなにより、これは映画館で観なきゃと思ってもらえるものでなくてはならないと思っています」
取材・文/宇野維正