喜びも痛みも痛烈に伝わってくる血の通ったエールムービー!『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』に心奪われた映画のプロたちのレビューをお届け!
クライマックスでフンスがジェヒに贈るプレゼントで涙腺が崩壊してしまう
キム・ゴウンは“ケミストリーの天才”である。いまの韓国映画、ドラマ界で、彼女ほどキャラクター同士の関係性を魅力的に、そして信ぴょう性をもって演じられる俳優はいないのではないか。そのケミ力は恋愛関係だけに留まらない。「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」のコン・ユに始まり、「ユミの細胞たち」のアン・ボヒョンとジニョン、「シスターズ」ではナム・ジヒョンとパク・ジフの三姉妹、そして『破墓/パミョ』のイ・ドヒョンとの師弟関係は男女ペアの新しい関係性を示した。この『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』で見せたフンス役ノ・サンヒョンとの見事な親友ケミは、物語が進むにつれて観客のなかにも育っていく。だからこそ、クライマックスでフンスがジェヒに贈るプレゼントで涙腺が崩壊してしまうのだ。
(映画ライター・平井伊都子)
人生の主人公は自分ということを、温かく包み込む物語
文字通り、これは各地から人が集まる大都市でしかありえないのかも。ほんの十数年前の東京が舞台でもまったくおかしくないお話。そう思ったのは、特にフンスの頑なさがかつての東京のゲイにも多かったからだ。セクシュアルマイノリティであることをひた隠しにし、自分らしさを封印して生きることを選ぼうとする彼。様々な出自を持つ人が集まる都会にいるからこそ、それが通用してしまう。そこにジェンダーロールにハマらずに、自由を謳歌するジェヒが現れたことでフンスの殻が破れ、友情と愛を受容するようになる。人生の主人公は自分ということを、温かく包み込む物語は、いまもなお「自分らしく生きる」ことが許されない人々の心を解きほぐしてくれるはず。
(映画ライター・よしひろまさみち)
ジェヒがフンスに贈る「あんたらしさがなんで“弱み”なの?」というセリフからも感じられる通り、自分自身を形成するものはどれも欠点や弱点なんかではなく「自分らしさ」であるということを、力強く、けれど丁寧に伝えてくれる。
キム・ゴウンとノ・サンヒョンに加え、『パラサイト 半地下の家族』(19)や「愛の不時着」のベテラン俳優チャン・ヘジン、「ヴィンチェンツォ」「涙の女王」といった話題のドラマに立て続けに出演するクァク・ドンヨン、そして近年では「海街チャチャチャ」「ユミの細胞たち」などに出演する韓国の名バイプレイヤー、イ・サンイら実力派が顔をそろえ物語を盛り上げる。原作は、世界三大文学賞である国際ブッカー賞やダブリン文学賞にノミネートされたパク・サンヨンのベストセラー小説「大都会の愛し方」。そんな名作を、『アメノナカノ青空』(03)、『探偵ふたり:リターンズ』(18)などのイ・オニ監督が、喜びも痛みも痛烈に伝わってくる血の通ったエールムービーとして映画化し、韓国では早くも賞レースを騒がせている本作。
映画のプロたちから寄せられたレビューを読み、孤独だった2人の人生が光を纏っていく様子を、劇場で体感してほしい。
構成・文/サンクレイオ翼