喜びも痛みも痛烈に伝わってくる血の通ったエールムービー!『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』に心奪われた映画のプロたちのレビューをお届け!
太陽と月のごとく対照的な2人が、運命の出会いをはたす
運命の相手は、必ずしも恋愛の相手とは限らない──臆病なゲイの青年フンスと自由奔放に生きるジェヒという太陽と月のごとく対照的な2人が、運命の出会いをはたす。これまで映画ではなかなかメインテーマとして描かれてこなかった、恋愛関係ではない男女の強い結びつきが『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』にはある。剥きだしのまま生きているがゆえに様々な困難に出くわしてしまうジェヒのことを、一見クールそうなフンスがいつも懸命に守ろうとする姿が胸を打つ。クラブで踊り酒を浴びるほど飲む狂騒の若き青春時代を超え、課されてゆく社会的な責任が増しても、一生続いていくかもしれないと思わせてくれるフンスとジェヒの絆に、きっと誰もが憧れてしまうに違いない。
(映画ライター・児玉美月)
生きる困難を次々と蹴散らしていく最強の2人
その美しい関係性をいつまでも観ていたい。寡黙で心を閉ざしたゲイの男と奔放で強気な女の20歳から33歳という青春の経過を見つめる、2025年最良のバディムービーの一つである本作は、混沌としたこの時代に愛と友情を深く解析した、現代の解体新書でもある。
真逆な性格の2人で織り成すユーモアあふれるやりとりは、その軽妙さと瑞々しさで観客を乗せて物語を勢いよく牽引する。だが、なによりも美しいのは、男尊女卑やマイノリティへの偏見にさらされる社会に葛藤しながら、劇中往復する「自分らしさは弱みではない」という言葉に込められた、個人の尊厳を無条件に支持する揺るぎない力強さ。生きる困難を次々と蹴散らしていく最強の2人に、思わず涙する。
(映画解説者・中井圭)
ジェヒのフンスとの関係はまさにシスターフッドの先にあるもの
キラキラのラブコメ調で描かれる男女の友情がこんなにもポップで泣けるなんて!ジェヒのTシャツの背中には「SISTERHOOD IS POWERFUL」の文字が見えるけれど、ゲイのフンスとの関係はまさにシスターフッドの先にあるもの。だってワンナイト後のジェヒに年配の女性産科医が突きつけたのはまさかの自己責任。同性同士でさえわかり合えないのだから、「尻軽でクズみたいな女は軽く扱っても傷つかないと思ってる?」と叫んだジェヒはどんなに悔しかったか。劇中で流れる「Bad Girl, Good Girl」は2010年のヒットソングだが、泣くほど傷ついた日は2人と一緒に歌って踊り明かしたい──「あんたは私を知らない、だから黙れ」と。
(文筆業・奈々村久生)
たった1人でもまるごと肯定してくれる理解者がいればいい
人の数だけ愛し方がある。人があふれる大都会は、ある意味孤独だ。周りの多くの理解は得られなくとも、たった1人でもまるごと肯定してくれる理解者がいればいい。ジェヒとフンスの男女を超えた清々しい友情は、そう思わせてくれる。友情も一つの愛情だ。キム・ゴウンの魅力全開の本作。顔をクシャクシャにしながら笑って、泣くのも怒るのも、見ていて気持ちいいぐらいストレートに表現する。汚い言葉もポンポン飛びだす。だが、自由奔放だからといって、傷つかないわけじゃない。秘密を抱えて生きてきた繊細なフンスだからこそ、軽い女と誤解されがちなジェヒの寂しさも優しく包んでくれる。これぞ理想のパートナー。
(映画ライター・成川 彩)