『海街diary』から10年!『ちはやふる』や『怒り』を経て『片思い世界』でも輝く広瀬すずの進化に迫る
過酷な撮影を経て芝居のおもしろさに目覚めた『怒り』
そして広瀬が大きく変わる、第一のターニングポイントとなったのが『怒り』(16)だ。吉田修一の同名小説を映画化したミステリーで、ある事件に巻き込まれてズタボロになる沖縄に住む少女、泉を演じたのだが、妥協を許さない李相日監督による現場の洗礼を受けた彼女の芝居は、自身のキャラを活かしたそれまでのものと違い、目を背けたくなるぐらい壮絶で痛々しい。
現場で相当追い込まれたことも想像できたが、彼女はその過酷な撮影を経て芝居の本当のおもしろさに目覚めたのは間違いないだろう。それは当時取材した際の、「(本作で共演した)森山未來さんや宮崎あおいさんのような俳優になりたい」という言葉にもはっきりと表れていた。
『三度目の殺人』、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』、『SUNNY』などで様々なキャラクターにチャレンジ
こうして新境地を切り拓き、俳優としての高いスキルを印象づけた彼女は、第一線で活躍する名だたるプロデューサーや監督から次々にオファーを受け、様々なキャラクターにチャレンジしていく。
是枝監督との2度目のタッグとなった『三度目の殺人』(17)では、父親を殺した犯人(役所広司)と対峙する物語の鍵を握る女子高生を、いっさい笑わない陰のある芝居で作り上げて観る者を翻弄。三木孝浩監督の『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(17)では、世界史の教師(生田斗真)に恋をし、その純粋な思いを勇気を振り絞ってぶつける内気な女子高生の心情を演じてみせた。
さらに、大根仁監督がメガホンをとった『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)では、コミカルな演技も取り入れながら、ルーズソックスを履いた90年代のコギャルを快演。岩井俊二監督の『ラストレター』(20)では、主人公(松たか子)の姉の高校時代と彼女の娘を一人二役で、2人の共通点がわずかに感じられるように演じ分けていたのも記憶に新しい。
俳優としてより進化した姿を見せた『流浪の月』
そして、李相日監督と再び組んだ『流浪の月』(22)が二つ目のターニングポイントに。広瀬が本作で演じたのは、幼児誘拐事件の被害者の烙印を押されながら生きてきた更紗。大人に成長し、既婚者でもある彼女は、事件の被疑者であり、実際は心の拠りどころだった男(松坂桃李)と15年ぶりに再会するのだが、広瀬は更紗の胸にその時に湧き上がった生の感情と、抑えられない衝動を、2人が会っていなかった15年の月日のエモーションを想像しながらリアルに表現。それを“嘘の芝居”を許さない李監督の現場でまんまと成立させているのだから流石だ。
自信の表れなのか、芝居の振り幅もどんどん大きくなって、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』(23)では入江悠監督のもと、同作のテレビシリーズで自分のものにした天才探偵助手、美神アンナを自らが提案したヘアスタイルを映画用にアレンジし、より自由でアクティブなキャラへとバージョンアップ!さらに、岩井監督の『キリエのうた』(23)でも、歌うことでしか“声”が出せないストリートミュージシャン、キリエ(アイナ・ジ・エンド)のマネージャーになる謎の女、逸子を7色のウィッグを着け替えながらミステリアスに体現。実は結婚詐欺で警察に追われていた彼女を楽しそうに演じ、そのダークなキャラを魅力的なものにしていた。