「最高の離婚」から「いつ恋」「カルテット」…『片思い世界』に通じる坂元裕二作品のエッセンスを名セリフと共にひも解く
『花束みたいな恋をした』(21)の脚本家の坂元裕二と土井裕泰監督が再タッグを組んだ『片思い世界』(4月4日公開)。広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務めるのだが、3人が東京の片隅で共同生活をしている主人公を演じること以外、多くの情報が伏せられている。一方で、坂元が手掛けてきた「カルテット」、「anone」、「大豆田とわ子と三人の元夫」といった大ヒットドラマから『花束みたいな恋をした』など劇場作品まで、過去作に通じるエッセンスもちりばめられている。そこで本稿では、ライターの綿貫大介が最新作『片思い世界』の魅力を解説。これまでの印象的なセリフもピックアップしながら、坂元作品が描いてきたものに迫っていく。
これまでの坂元裕二作品にも通じる『片思い世界』の魅力とは?
なんて豪華な共演なのだろう。広瀬すず、杉咲花、清原果耶。それぞれが朝ドラヒロインを務め、唯一無二の俳優としてキャリアを積んでいる。この魅力的なキャスティングは、本作の脚本家でもある坂元裕二発案だという。3人が話しているところが思い浮かんで離れなかったそうだが、まさか実現するとは。広瀬は「anone」で、清原は『花束みたいな恋をした』で坂元作品に出演経験はあるものの、時を経てさらに勢いを増す俳優となった3人が集結した『片思い世界』、観たいに決まっている。キャストだけで見応え、見どころは十分なのだけど、ここは過去の坂元作品と紐づけながら本作について考えていきたい。
街も一つの主役。変化した東京の描き方
坂元作品においては、出演者はもとより、街が一つの主役として存在している。特に東京という街は、単なる舞台ではなく、登場人物の生き方や感情に深く関わる重要な要素として描かれる。これは坂元がトレンディドラマ出身の作家であることと無関係ではないだろう。
初期の代表作「東京ラブストーリー」のキャッチコピーは、「東京では誰もがラブストーリーの主人公になる」だった。おしゃれで、夢があって、華やかな東京。画面からは何者にでもなれる輝かしい街の魅力が存分に伝わってきた。でもその25年後、坂元が描く東京は一変する。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の東京にかつてのキラキラはなく、孤独を抱える街の現実に対して、登場人物もこんな言葉をこぼしている。
「横型の信号機。迷路のような地下鉄。人身事故で電車が五分遅れると、舌打ちする人。“おいおい”と読んだら笑われたお店の名前」(音/有村架純)
「東京は夢を叶えるための場所じゃないよ。東京は夢が叶わなかったことに気付かずにいられる場所だよ」(晴太/坂口健太郎)
では、『片思い世界』が映しだす東京はどうか。美咲(広瀬)、優花(杉咲)、さくら(清原)の3人は、東京の片隅の、古い一軒家で一緒に暮らしている。それには“ある理由”があるのだけど、その驚きはこれから観る方のためにとっておこう。3人が生きる東京の街は、静かに、でも、力強く息づいているように見えた。緑豊かな井の頭通り沿いを走るバスから見える景色。駒沢オリンピック公園で、それぞれの楽しい時間を過ごす若者たち。東京といえど、わかりやすい歓楽街のギラツキも、人情でコーティングされた下町の風情もない。そこには私たちが日々ひっそりと暮らしている、日常の東京があった。「最高の離婚」の中目黒や『花束みたいな恋をした』の調布がそうだったように、本作もこの街に実際にいそうな登場人物たちが、リアリティを持って存在している。そのことがとても嬉しかった。3人を観ていたら、なんだか取るに足らない東京の日常が、急に愛おしく感じられた。