“国民の妹”と呼ばれる歌手が韓国を代表する演技派に!IUが「おつかれさま」で示した俳優としての真価
長らく待たれていた話題の韓国ドラマ「おつかれさま」がこの3月にNetflixでようやく配信が始まり、28日に最終回を迎えた。済州島で生まれた一人の女性と家族の人生、彼女を取り巻く人々の人間模様を描いたドラマは毎回深い感動を巻き起こしている。脚本や演出の力はもちろんだが、作品への高い評価は主演のIUの存在あってこそ。シンガーソングライターとしてだけでなく今や俳優としても活躍が目覚ましい彼女の、演技者としての実績をこの機に確認してみたい。
歌手活動の傍らアイドル志望の高校生役で俳優デビュー
2011年、スターを目指す若者たちが集う芸能高校を舞台にした青春ドラマ「ドリームハイ」で演技活動を開始したIUは、歌手としてはこの時すでにトップスターの地位を手にしていた。15歳でデビューしてすぐには人気が出なかったものの、翌09年には卓越した歌唱力が支持され、10年には“国民の妹”と称されるようになる。この年のヒット曲「Good Day」で聴かせた超絶技巧の高音は“3段ブースター”と呼ばれて、彼女の代名詞ともなった。これほどの人気を得たIUが初ドラマで演じたピルスクはぽっちゃり体型で、言われなければIUだと気づかない別人ぶり。ただ、後半は痩せた姿で登場し、かわいさを披露してファンを喜ばせた。今から15年近く前の作品だが、ピルスクとウヨン(2PM)扮するジェイソンの微笑ましい恋模様をよく覚えている。
幼い頃から芸能界を夢見ていたものの、最初から歌手志望だったわけではなく、デビュー前は演技塾に通っていたというから、もともと演じることへの意欲はあったのだろう。2013年には2作目となるドラマ「最高です!スンシンちゃん」の主役に選ばれた。実母が有名女優と知らずに育った平凡な娘イ・スンシンが、運命に導かれるように女優を目指して少しずつ変貌していく様子を、先輩俳優たちの支えを受けて50話にわたり演じ切った。同年は続いてラブコメディ「キレイな男」に主演。“普通”という意味を持つ、役名通り平凡な娘ボトンが、チャン・グンソク演じる主人公の美しさの虜となって彼に尽くす健気な姿を好演して演技力が評価された。
これら3作どれもが、どこにでもいるごく普通の娘という設定なのが興味深い。確かに、パッと人目を引くような派手さはないし、韓国の女優としては身長も大きいとは言えない。IU自身容姿に自信が持てない時期があったそうで、デビュー前にJYPエンターテイメントをはじめとする芸能事務所のオーディションをいくつも受けたなか、「どうせ外見で落とされると思ってSMエンターテイメントは受けなかった」と語っている。ただ、親しみやすい愛らしさは“国民の妹”たるに相応しい。そうした点や歌の実力に加えて、彼女が絶大な人気を得たのは、デビュー以来ずっとソロで活動をしていることも大きかったように思う。IUが活動を開始した当時はSM所属の少女時代を筆頭に、ガールズグループが次々に世に出た時代だった。そんな状況にあって、たった一人で頑張っている姿が多くのファンの心を掴んだ。
それだけに「プロデューサー」(15)で演じたアイドルグループのシンディは、常に不機嫌でわがままに振る舞う様子が最初IUのイメージと合わないと言われた。しかし、実は内面に悲しみや孤独を抱えたキャラクターであることがわかってくると、次第に視聴者の見方も変化。特に、シンディが亡き両親を思って涙する姿や、新人ADへの叶わぬ恋に一喜一憂する姿にはすっかり没入させられてしまう。彼女が人気スターであるがゆえに不自由を強いられる様子に、いつしかIU本人を重ね合わせて見ていることに気付かされた。