「最高の離婚」から「いつ恋」「カルテット」…『片思い世界』に通じる坂元裕二作品のエッセンスを名セリフと共にひも解く
ホームドラマを更新し続ける坂元作品。描くのは拡張する家族像
特に2010年代以降の坂元作品には、ホームドラマへの視座も感じられる。もちろん扱うのは、世の中の“ノーマル”を享受しているような家族だけではない。「最高の離婚」ではこんなセリフがあった。
「一番最初に思い出す人だよ。一番最初に思い出す人たちが集まってるのが家族だよ」(結夏/尾野真千子)
この作品は、法律婚をしたカップルの行く末を描いている。しかしこのセリフからは、法律婚、血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎とする“ふつう”の家族の概念を、拡張する可能性に満ちたものとして捉えることができる。同様に、坂元作品はこれまで様々な新たな家族像を示してくれていた。例えば、「カルテット」における4人の共同生活も、拡張家族的だ。
「私たち同じシャンプー使ってるじゃないですか。家族じゃないけど、あそこはすずめちゃんの居場所だと思うんです。髪の毛から同じ匂いして、同じお皿使って、おんなじコップ使って、パンツだってなんだって、シャツだってまとめて一緒に洗濯物に放り込んでるじゃないですか。そういうのでもいいじゃないですか」(真紀/松たか子)
「anone」でも不思議な縁で出会った人々が、血縁を超えた疑似家族を形成していた。
「ここはもうハリカちゃんが帰るところだからね。横並びで寝てるでしょ?今度から行くじゃなくて帰るって言いなさい。帰れない日は、帰らないって言いなさい」
「もし何かあった時は、私がお母さんになってあなたを守る。偽物でもなんでも、私があなたを守る」(共に亜乃音/田中裕子)
坂元はこの国のホームドラマを更新し続ける存在と言っていいだろう。そして『片思い世界』も、新たなホームドラマという見方ができる作品だ。例えばこんな会話が出てくる。
「もう泣くのやめな。住む場所探してさ、3人で普通に暮らそうよ、って。ご飯もちゃんと作ろう。お風呂も入ろう。洗濯物はたたもう。学校行って勉強するの。いつか仕事だってするんだよ。誰も見ていなくたって、トイレのドアは閉めなさい」
3人に血縁関係はないが、ひとつ屋根の下で家族というべき運命共同体をつくっている。美咲は慎重派で頼れる存在、優花は好奇心旺盛、さくらは素直でまっすぐ。性格もまるで、家族における長女、次女、三女のようではないか。家族とはいつのまにか、お互いにしっくりなじんでいくものなのかもしれない。さらに拡張家族の描き方としてはとりわけ、弱い立場の者たちに寄り添いながら、新たなホームの可能性を探っているのが坂元作品の特徴でもある。本作もそのあたりに注目してほしい。