「最高の離婚」から「いつ恋」「カルテット」…『片思い世界』に通じる坂元裕二作品のエッセンスを名セリフと共にひも解く
軽快な会話劇だけじゃない。坂元作品の魅力は“片思い”にあり
「片思い」という言葉が印象的な『片思い世界』。観終わったらこの上ない納得感のあるタイトルなのだが、これについてはまだ語れない。そこで、坂元作品における片思い、つまり一方通行の思いを振り返っておきたい。
「片思いって、1人で見る夢でしょ?」「両思いは現実。片思いは非現実。そこには深〜い川が……」(「カルテット」:家森/高橋一生)
「いいんです、私には片思いでちょうど。行った旅行も思い出になりますけど、行かなかった旅行も思い出になるじゃないですか」(「カルテット」:すずめ/満島ひかり)
「片思いはハラスメントの入り口だ。僕は、彼女に片思いという暴力を振るってしまった」(「初恋の悪魔」小鳥/柄本佑)
「片思いなんて扁桃腺とおんなじだよ。何の役にも立たないのに病気のもとになる」(「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」:朝陽/西島隆弘)
「片思いだって五十年経てば宝物になるのよ」(「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」:静恵/八千草薫)
坂元がいかに「片思い」が好きか、これだけで伝わるだろう(もちろん、片思いは恋愛だけの意味ではない)。そして意思の疎通に相互関係がないという意味では、手紙というツールも一つの片思い表現だと言えるだろう。「それでも、生きてゆく」、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、「最高の離婚」をはじめ、多くの坂元作品には手紙が登場する。作品によって相手に届く手紙もあれば、相手に届かない(もしくは本人が出さない)手紙も多く、届かない時は書き手の気持ちが宙吊りにされるのも特徴だ。
大概の人が坂元裕二作品の好きなところとして軽快な「会話劇」を挙げたがるが、双方向のやり取りだけでなく、他者を介さない一方的な思いの吐露も、坂元作品の魅力の一つ。そして『片思い世界』は、タイトル通り、一方通行の思いがメインとなる。本作は坂元が描く、片思いの境地。届かない思いを、3人はどう世界に伝えるのか。そのヒントは、すでに公開されている劇中歌「声は風」にある。鑑賞前にSpecial Movieを見て予習を。そして劇場で、この片思いの結末をぜひ見届けてほしい。
文/綿貫大介