A24製作『ベイビーガール』のハリナ・ライン監督が明かす、大胆な物語に込めた秘めたる願望「普通になりたい」
A24とニコール・キッドマンがタッグを組み、第81回ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『ベイビーガール』(3月28日公開)。「A24史上、“最高に挑発的!”」と謳われる本作は、キッドマン演じる、“すべてを兼ね備えた完璧なCEO”が、若きインターンに秘めた欲望を嗅ぎ分けられ、力関係が逆転。燃え上がる危険なパワーゲームにはまっていく様を描いたエロティック・エンタテインメントだ。主演を務めたキッドマンによる、堂々たる肉体美を含めた圧巻の演技と、若きインターン役のハリス・ディキンソンの繊細でミステリアスな魅力が見事に絡み合い、観る者を予測不能なスリルへと誘っていく―。このほど、MOVIE WALKER PRESSでは、ハリナ・ライン監督にオンラインインタビューを実施。本作に込めた想いや、制作の裏側について聞いた。
「A24と一緒に製作を行うことで、『映像作家として、よりクリエイティブになれる』と確信しました」
本作の制作過程について「すべてがチャレンジングだった」と、振り返るライン監督。「もともと私は小さな国であるオランダ出身で、これまでに手掛けてきた作品は、国の助成金などで賄ってきた小規模なものでした。それが、今回はアメリカで撮影することになり、いきなりこれだけの規模まで膨れ上がったわけです(笑)。スタッフの数も増えますし、これだけの大スターたちが顔を揃えるとなれば、演出する側としては当然緊張しますよね。精神的にも、肉体的にもかなりの挑戦を強いられるシーンが多い作品でもありますし、すべての責任を監督である私一人で背負う必要があるので」
パソコンの画面越しであっても、身振り手振りを交えながら、ユーモアたっぷりに苦労話を語るライン監督の表情は、とても溌剌としていて、やりがいに満ちている。監督が「聞いてよ!」と言わんばかりに、眉間にしわを寄せながら「大変だった…!」と語れば語るほど、フランクで魅力的な人柄が伝わってきて、「この監督の現場だったら、過酷な撮影でもなんとか乗り越えられそう」と妙に納得させられてしまうのだ。
映画界の最前線を駆け抜けるスタジオA24とタッグを組むことで得られたメリットについて、監督はこのように説明する。「これは別にA24がアメリカの会社だからというわけではなく、たとえどこの国の製作会社であったとしても非常に珍しいことなのですが、『A24はアーティスティックな自由を作り手側に与えてくれる』という点に尽きますよね。監督や作家のビジョンをしっかり守ってくれますし、それどころか『より大胆に、より大きな挑戦をしなさい』と私たちの背中を押してくれるんです。彼らと一緒に製作を行うことで、『映像作家として、よりクリエイティブになれる』と確信し、アメリカへの移住を決めました」
物語は、ニューヨークでテック関係の会社のCEOとして成功を収めているロミー(キッドマン)が、インターンとしてやってきたサミュエル(ディキンソン)と出会い、禁断の関係へと足を踏み入れていくところから始まる。アントニオ・バンデラス演じる舞台演出家の優しい夫ジェイコブと2人の娘に恵まれ、私生活も誰もが憧れる暮らしを送っているにもかかわらず、心の底に満たされない渇きを抱えていたロミーは、サミュエルの挑発的な魅力に抗えず、次第に深みにはまっていく。