『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!
驚くほどフレッシュな作品…坂元裕二×土井裕泰監督ワールドが凝縮(MOVIE WALKER PRESS編集長・下田桃子)
日々の営みを見つめること。“届かない声“を聴くこと。『片思い世界』は坂元裕二の脚本×土井裕泰監督の演出が凝縮された、それでいて驚くほどフレッシュな作品だった。観ているこちらはつい坂元裕二“らしさ”を集めたくなるが、「静かな日常を描くものではなく、世界に抗う物語でなければいけない」(『片思い世界』公式プレスより)と口にする坂元が同じ場所にとどまっていないのは明らかで、それってファン冥利に尽きる。
2人のタッグは『花束みたいな恋をした』で映画ファンにも広く知られたが、『片思い世界』同様に同居生活ものである「カルテット」も忘れてはならない。坂元に企画をもちかけ、傑作ドラマに仕上げたチーフプロデュース・演出の土井裕泰の功績だ。
松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が本音と嘘を延々としゃべる、幸せな時間だった。冬の軽井沢が舞台の弦楽四重奏という設定もあいまって、浮世離れした魅力もあった。坂元自身、「こんなスーパーな4人がそろっているのに、所帯じみた話を書きたくない」と思った、と語っている(「脚本家 坂元裕二」ギャンビット刊より)。
『片思い世界』に集ったのは広瀬すず、杉咲花、清原果耶。それこそ坂元は「こんなスーパーな3人がそろうなら…」と思ったはずだ。トイレのスリッパを間違えて履き怒られる。お弁当をいつ食べるかで小競り合いをする。表情がくるくる変わる3人のやり取りを見ているだけで、スクリーンに多幸感がにじむ。
美術や衣装はどこを切り取ってもかわいい。ちょっとかわいすぎるくらいだ。12年もの間、特別な絆でつながってきた彼女たちの同居生活は、世界の端っこで夢を見ているような尊さがある。その繊細な演出は、本作の驚くべき設定に効いている。『花束みたいな恋をした』で麦と絹が同棲する部屋然り、細部まで気を配られた“家“そのものが土井監督の演出だ。坂元×土井作品は、登場人物が家の中にいるシーンこそ楽しい、とも言える。
もう一つ、本作を貫くのは「“届かない声“を聴くこと」。坂元作品の登場人物は、社会や環境、あるいは相手との関係性から、本心を届けられずにいることが多い。美咲たちもまさに“片思い“状態だし、「私たち、ありえないって言われないといけない存在なの?」「でたらめだったら傷つくかもしれない」と口にする。そんな彼女たちの声に耳をそばだて、すくい上げる、坂元裕二の物語を堪能してほしい。
構成/編集部