『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!

『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!

「役を生きる」俳優陣による気づかせない名演にぜひ目を向けて…4人のキャストが魅せる確かな演技力(物書き・SYO)

国民的俳優としてトップを牽引する3人がトリプル主演を務める
国民的俳優としてトップを牽引する3人がトリプル主演を務める[c]2025『片思い世界』製作委員会

劇映画を観るとき、我々観客は作り手と共犯関係を結ぶ。「嘘を信じる」という点において。現実とは異なる“物語”の世界が広がり、俳優が自身とは違う別人を演じる。観客はその虚構を受け入れ、自身の生の感情を委ねて作品を享受する。出し手と受け手、両者の結託がなければ成立しえないからこそ、肝要になってくるのは説得力だ。俳優を作品世界の中に生きる一個人として錯覚してしまうほどの真実味、嘘が嘘でなくなる瞬間。俗にいう演技力を期待しながら、我々はスクリーンと向き合うものだ。

【写真を見る】ホラー映画を楽しむ3人を演じた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶がかわいい…
【写真を見る】ホラー映画を楽しむ3人を演じた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶がかわいい…[c]2025『片思い世界』製作委員会

その意味で、『片思い世界』は相当な難題がキャストに課せられた作品だ。広瀬すず杉咲花清原果耶、そして横浜流星。言わずと知れた人気俳優陣であり、観客を「気づけば涙が流れている」一種の反射状態にまでいざなう表現者たちだからこそなせる業。その一つが、年月の創出。本作は「12年もの間、支え合って暮らしてきた女性たち」「12年間、ある想いを抱え続けた青年」の物語。ただ、その過程が冒頭から懇切丁寧に示されるわけではない。我々はその“前提”を各々の芝居から推し量るのだ。広瀬、杉咲、清原が醸すグルーヴ感や距離感に登場人物たちが歩んできた“描かれない時間”を想像し、横浜が全身に漂わせる憂いを頼りに、物語に寄り添っていく。逆に言えば、4人の芝居に年輪が伴わなければ嘘の割合が大きくなり薄っぺらくなってしまっただろうが、まるでノイズを感じさせない四重奏で魅せきり、物語上も重要な意味を持つ「歳月」を立ち上げている。

本作でピアノに初挑戦。高杉典真役を熱演する横浜流星
本作でピアノに初挑戦。高杉典真役を熱演する横浜流星[c]2025『片思い世界』製作委員会


そして、本音の匂わせ。和気あいあいとしたシーンの中にもひとさじの異なる感情を混ぜ込んでおり、後からもう一度見るとわかる仕掛けを芝居ですべて請け負っている。表面上伝わってくる感情の奥に、もう一つの真実を隠した二段構えの構造になっており、感度の高い観客に「あれ?今の一瞬の表情はどういうことだろう」「何か引っかかる間があったな」と微かな違和感を抱かせながらも、実はそれらすべてが作劇上のピースだった、という非常に高度な配分、出力をやってのけているのだ。独特のリアリティラインが引かれた本作の中で冒頭からスムーズに観客を没入させ、後半への布石も丁寧に配置していくのは、相当ハイレベルなミッションだったことだろう。物語はやがて全貌を表し、各々の秘めた片思い先が明かされ、涙がとめどなく流れる、隠していた想いが疾走する、伝えたかった言葉が溢れる、見事な演奏を披露する等のエモーショナルな見せ場へとなだれ込んでいく。そうした“サビ”にたどり着いたとき我々が素直に心を震わせられるのは、冒頭から密やかかつ細やかに行われ続けた、4人の俳優陣による緻密で真摯な地ならしゆえ。文字通り「役を生きる」面々だから成し遂げられた、気づかせない名演にぜひ目を向けていただきたい。

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