ゾーイ・サルダナのパフォーマンスに酔いしれたい。アカデミー賞最多ノミネートのミュージカル『エミリア・ペレス』を映画のプロたちが語る

ゾーイ・サルダナのパフォーマンスに酔いしれたい。アカデミー賞最多ノミネートのミュージカル『エミリア・ペレス』を映画のプロたちが語る

「制作はサンローラン プロダクション。ジェンダーに対する意識の強さを感じます」

さすがサンローランの制作。ジェンダーへの鋭い切り込み、お洒落な衣装やインテリアも見逃せない『エミリア・ペレス』
さすがサンローランの制作。ジェンダーへの鋭い切り込み、お洒落な衣装やインテリアも見逃せない『エミリア・ペレス』[c] 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMACOPYRIGHT PHOTO : [c] Shanna Besson

渡辺「この映画はサンローランが共同制作としてクレジットされてるけど、映画制作は初めて?」

相馬「短編や、自社にまつわるドキュメンタリーは作っていたけれど、劇場用映画はペドロ・アルモドバル監督の中編『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』が最初のようですね。これもゲイのガンマンたちを題材にした西部劇で、ジェンダー意識の強い作品だった。で、昨年『エミリア・ペレス』をカンヌ国際映画祭に送り出したのですが、ほかにも2本出品していて、そのうちのひとつがデヴィッド・クローネンバーグの新作です」

野口「『エミリア・ペレス』ではゾーイとセレーナがサンローランの服を着てたから、そういうことかとは思いましたが、衣装にもお洒落な魅力がありますね」

 隅々まで洗練された衣装やセットにも注目
隅々まで洗練された衣装やセットにも注目[c] 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMACOPYRIGHT PHOTO : [c] Shanna Besson

渡辺「確かに洋服は素敵だった!インテリアも含めて、センスがいいよね。映画制作に関していえば、もともとクリエイティブなことに理解があったということなのかな。そもそも、伝記映画『イヴ・サンローラン』を観てわかるとおり、サン=ローラン自身もゲイだったし、ジェンダーに対する意識は強かったんでしょう。こういう映画はデリケートな問題を扱っているから、メジャーな映画会社は作りだからないし。でも、そこに切り込んで行くのはいいことだと思います」

相馬「そういう意味でいうと、脚本協力のレア・ミシウスもジェンダー意識が強い方ですね。監督作の『ファイブ・デビルズ』もその色が濃く出ていました。オーディアールとは『パリ13区』でも脚本家として組んでいます。『チタン』のジュリア・デュクルノー監督もそうだけれど、フランスでは若い女性監督が意欲的な作品を送り出していますが、この人も要注目の映画人になっていく気がします」

渡辺「スタッフであと触れておきたいのは、音楽がすごくよかったクレモン・デュコルとカミーユ。歌曲賞のパフォーマーはゾーイだけど、曲を作って受賞対象者となったのは、この2人だし」

野口「カミーユは『レミーのおいしいレストラン』で楽曲を提供した人ですね」

高橋「もう一人のクレモン・デュコルはレオス・カラックスの『アネット』でカンヌ映画祭の賞を獲っていましたが、『エミリア・ペレス』の曲の雰囲気は、あれとはまた全然違いますね」

 リタは女性となったエミリアに再会し、彼女の事業を手伝う
リタは女性となったエミリアに再会し、彼女の事業を手伝う[c] 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMACOPYRIGHT PHOTO : [c] Shanna Besson

相馬「『アネット』では共同で音楽を手掛けたスパークスの色が強かったのかもしれません。ついでと言ってはなんだけれど、もうひとつ、ミュージカルシーククエンスに触れさせてください。リタがテルアビブに飛んで、そこの医師に相談に行った時に歌う『Lady』の場面、あまり派手ではないけれど重要だなあと思ったんですよ。経験からくる固定観念を捨てて『あなたの考えを変えて』と歌いかけるシーンですが、何気にこの映画のテーマでもあるような」

野口「あの場面は私も好きです。『身体は変わっても人間の本質は変えられない』という医師を、リタが説得する場面ですよね。『治療はできるけれど、戦争は止められない』というフレーズもありましたが、とても考えさせる、いいシーンだったと思います。こういうテーマは、ミュージカルだからこそ飲み込みやすい。普通のドラマでは難解そうに見えてしまうんじゃないでしょうか」

【写真を見る】いままでとは印象が違うセレーナ・ゴメス…!圧巻の演技力に魅せられる
【写真を見る】いままでとは印象が違うセレーナ・ゴメス…!圧巻の演技力に魅せられる[c] 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMACOPYRIGHT PHOTO : [c] Shanna Besson


渡辺「それを思うと、エミリアは結局、最初に医師が主張していたことが間違いだったと、証明したわけだ。男性だったころは麻薬王として人をあやめていたけれど、好きでやってたわけではないし、もともとは女性の心を持っていて、女性の肉体を得たことで、本当にやりたかったこと、つまり犯罪以外のことができるようになったんだから。それは身体が変わったことによって初めて得られたことだからね。そのあとはあまり男性キャラは出てこないけれど、ジェシーの愛人のような小ずるい男もいるじゃない?だから見方によっては“男はロクなもんじゃない”と言ってるようにも見えるよね(笑)」

高橋「(苦笑)極端に言えばたしかに、そうでした。まともな男性のキャラクターというと、手術を担当した医師くらいですからね」

相馬「いずれにしても女性映画としてきれいに着地しているのは間違いないと思います。エミリアは男性だったころ、麻薬戦争の中で生きてきたけれど、戦争を起こすのはだいたい男。そういう意味では、あの医師に象徴されている現代の保守的な男性に『考え方を変えて』と訴えている映画のようでもありますね」

文/相馬 学

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