ゾーイ・サルダナのパフォーマンスに酔いしれたい。アカデミー賞最多ノミネートのミュージカル『エミリア・ペレス』を映画のプロたちが語る
「助演女優賞のゾーイ・サルダナはしなやかで、パンチが効いていましたね」
渡辺「あとは、やっぱりゾーイ・サルダナ。アカデミー賞では助演女優賞も獲ったし、歌曲賞のパフォーマーでもある」
相馬「中盤の慈善パーティで歌った『El Mal』ですね。あのシーンのゾーイもめちゃくちゃ、かっこいい。歌にも虐げられた者の主張があるし、彼女自身テーブルの上に飛び乗って踊って、ちょっとアクロバティックなこともして、とにかくしなやかで、パンチが効いていました」
高橋「あの場面は撮影もかっこよかったですね。K-POPの音楽番組のようなカメラーワークで、ダンスのリズムに合わせてカメラが動くような。最近は日本のテレビ番組でも真似している印象があります」
渡辺「ゾーイのダンスとカメラが一致しているような感じですね。『アバター』でジェームズ・キャメロンに取材した時にゾーイについて訊いたけれど、彼女はバレエをやってたから身体能力が高くて、アクションを演じる時はすごく助かったと言ってた。考えてみると、ゾーイはアクション映画への出演が多いから。『スター・トレック』シリーズに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズとか」
相馬「正直、主演女優賞でもいいんじゃないか?というくらいの存在感がありました。で、主演女優賞に実際にノミネートされたエミリア役のカルラ・ソフィア・ガスコンも、やはりイイんですよね!実際にトランスジェンダーの方だからかもしれないけれど」
渡辺「この映画のために連れてきた素人の方なのかな?というくらい、自然でハマってた。ミュージカルの場面では、あの人、そこまでたくさん歌わないじゃない?歌っても音程差がそんなにない曲で、ラップのようでもあるけれど、ゾーイがしっかり歌ってるぶん、それが味になってるよね」
高橋「男牲だった時の歌声はラップで、あれもかっこよかったですね。低音でシブみがありました」
野口「生きるか死ぬかの世界で、心が女性であることを隠し通すことへの苦悩が伝わってきます。そういう意味でも、先ほど麻紀さんが言われたように、歌ですべてが語られていますね。ご本人の地声は男性と女性の中間ぐらいの音程だと語っていました。声の音程を代えて演技をするのもやりがいがあったようです」
相馬「演技の点でいうと、『眠れない』という子どもたちに添い寝する『Papa』のシーンで、子どもに『パパの匂いがする』と言われた時の表情とか、のちに恋人になるエピファニア(アドリアーナ・パス)と出会った時の好意の表現とか、いちいちイイんですよ…。考えてみると、物語のエモい部分は、ほとんどこの人が担っている」
渡辺「その対極に、彼女の元妻ジェシーがいるんだけど、演じるセレーナ・ゴメスも最初は誰なのかわからないくらい、全然違う印象で役に馴染んでいて。やっぱりポップスターのイメージが強いから」
野口「私もです。どこかで見たことがあるけれど、誰だったか思い出せないくらい印象が違いました。でも、この映画では悲劇のヒロインのようなポジションでもあって、すごく印象に残りました」
相馬「セレーナはスマホで自撮りしながら歌い出すシーンがあって、自撮り映像がそのままスクリーンに映し出されるけれど、あのアップの場面はポップスターらしい華を感じました。それと後半に行くほど重要なキャラクターになっていくけれど、その重さもしっかり表現していましたね」
高橋「自撮り動画のシーンは隣の部屋が異空間のようになっていて、その2つの部屋を行ったり来たりするのが、またおもしろかったですね。セレーナの場面では、あとは愛人とカラオケを歌う場面。ミュージカル映画にカラオケを導入したのが斬新で(笑)」
渡辺「華があるし、人目を引くし、その強みが生きていました。そういえば、今年のアカデミー賞でノミネートが発表された時、それに失望を覚えた人たちのコメントがどこかのサイトで記事になっていたけど、その中に『セレーナ・ゴメスが助演女優賞にノミネートされていなかった』というのがありましたよ」
相馬「結果がわかっているいまなら、ゾーイだけでいいじゃんと言えますけど、それはたしかに感じますね」