『それって幸せ?』出演の杉野希妃、11年ぶりとなる榎本憲男監督作の“不思議な脚本”に戸惑いも「現代にあるべき意義深い作品」
第39回東京国際映画祭特別上映作品『それって幸せ?』のワールドプレミアが、10月28日に角川シネマで開催され、杉野希妃、監督・脚本を手掛けた榎本憲男が上映後のティーチインに登壇。ユニークな脚本の感想や出演した三浦貴大との撮影秘話、本作に込めた想いなどを語り合った。
側から見ると無価値な趣味を貫く30代後半の男女3人。ところが、ある大事件をきっかけに、バラバラに見えていた3人の大切なものが交差していく。この3人を演じるのが、三浦、杉野、森優作たちだ。
最初に榎本監督が、本作について「真面目なのか不真面目なのか。でも、思い返してみると、ちょっとは真面目かも、という映画を作ってみたんです。僕はしばらく小説を書いていて、十数年ぶりぐらいに、こういうちょっと変わった映画を撮れて本当にうれしく思っています」と挨拶。
杉野は脚本を初めて読んだ時の感想を問われると「なんて変な脚本を書かれたんだろうと思いました。不思議な脚本で、これをどう捉えたらいいんだろうと戸惑いました」と告白。
「でも、何度も何度も読むうちに、これはものすごく深いテーマだなと。その人の本当の幸せはなんなのかという。私が演じたキャラクターは“いいね”をもらいたいとか、服装で身を飾りたいとか、表層的に見えますが、実はすごく本質的というか、もしかしたら自分を愛してもらいたいということからくるキャラクターなんじゃないかなと。だから意義深い作品だなと思いました。初めに読んだ時は、変態3人の不思議なトライアングルのお話だなと思いましたが、現代だからこそあるべき作品なんじゃないかなと思っています」と語る。
ユニークな物語は、どこから着想を得たのか?と質問された榎本監督は「僕は一貫して描きたいものが明確にある」と前置きしたうえで「合理性の外側を表現したい。現代社会は基本的には合理性で回っていますが、それだけだときついから、そこをバッファとして埋めているのがヒューマニズム。でも、僕は普通のヒューマニズムから離れたところにあるヒューマンなものを描きたい。そう考えていくと、なんとなくキャラクターが転がり出した感じです」と解説。
また、杉野のキャスティングについて、榎本監督は「杉野さんはこの役にぴったりだと思いました。3人ともに、この世のなかで価値を位置づけられないものをひたすら求めているというある意味、ダメ人間。本来ならそんなことをしている場合ではない事態においても、馬鹿馬鹿しいことを追求するんです。そんな姿に、なんらかの気品を備えてほしかった。それを今回、ものの見事にやっていただいたと思って、感謝しております」と杉野を称賛する。
それを受けて杉野は「初めて聞きました。なんでこの役が私にきたんだろうと驚いてましたから」と言うと、榎本は「ぴったりだと思います」と笑顔を見せる。杉野も「でも、共感する部分が私にはありました」とうなずいた。
また、ユルコワ怪談師を演じた三浦の演出について問われた榎本は、「三浦さんには、怪談を聞かないでほしいとお願いしました。現実の怪談師の真似をしてほしくなかったんです。現場で私がイントネーションなどすべてを指示するので、その通りにしゃべってほしいと伝えていました」とのこと。
杉野は、その演出にびっくりしつつ「三浦さん、準備はすごくされてたんだなと思っていました。セリフがとても長かったので、ちょっと茶々を入れたりしてたんです」とおちゃめに言うと、榎本が「そんなことしてちゃダメ」と笑いながらツッコむ。
杉野は「でも、そういうことにも動じず、ご本人も『できるかな?』と言いながら見事に演じられていました。本当に失敗もほとんどなく、完璧にやられてたので、すばらしい俳優だなと改めて思いました」と三浦を心から称えた。
最後に、本作を観るターゲット層や狙いについての質問が及ぶと、榎本は「いまの日本映画にちょっと不満なのは、すべてじゃないですけど、多くの映画がレディメイドなテーマで物語を都合よく作っているような気がするところです。僕はもう少し複雑で、もう少し深いテーマを映画で語りたい」としたうえで、「そして、できればそういったシリアスな問題をユーモアを交えて語りたいのですが、いまの日本映画にはあまりないんじゃないかと思います。それは、ニーズがないのか、供給がないのか。僕は供給がないだけだと信じているので、チャンスがあればそういう映画をまた作ってみたいと思っています」と力強く答え、ティーチインを締めくくった。
文/山崎伸子

