西川美和監督が励まされた、戦後の混乱を生きる子どもたちのしなやかな強さ『わたしの知らない子どもたち』に込めた“レジリエンス”と“冒険活劇”

西川美和監督が励まされた、戦後の混乱を生きる子どもたちのしなやかな強さ『わたしの知らない子どもたち』に込めた“レジリエンス”と“冒険活劇”

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「知るための材料は用意するけれど、感じ方や解釈は子どもたちに任せるという形をとりました」

琴子役には、オーディションを経て新星・小八重葵美が選ばれた。約2時間半の映画のほぼ全編に出ずっぱりで、過酷な世界を無我夢中で生き抜く。小八重を見つけることができた時に、この映画の成功はある程度担保されたのではないか。そう聞くと、西川監督はこう思い返す。「葵美ちゃんと出会えたことは、長い時間をかけて頑張って脚本を書いた私への、映画の神様からのご褒美なんじゃないか、と、観た人からも言ってもらいましたね」。

当時11歳でオーディションに合格し、主人公・琴子役に選ばれた小八重葵美
当時11歳でオーディションに合格し、主人公・琴子役に選ばれた小八重葵美[c]2026 K2 Pictures・AOI Pro.

12歳の少女、しかも少年の扮装をして映画を牽引する琴子役は、思いのほか難航した。
「ピアノの練習をしなくてはいけないので、撮影の9か月くらい前には決めておかないと間に合わない。そこから逆算し、1年3か月くらい先の撮影時の様子まで見越して選ぶのはかなり難しかったです。特に小学5、6年生くらいの女の子は急激に成長するので、撮影時には雰囲気が変わっているかもしれない。『まだ子どもらしいな』と思っていた子が、3か月後に会うと、すっかり女性になっていたりするんですよね」。

そうしてオーディションで選ばれた子どもたちにとって、戦争は遠い世界の話だ。「戦争のことは学校でどれくらい習った?どれくらい知ってるの?」と尋ねると、「みんな、ほとんど知らない」という顔をしていたという。広島で生まれ育った西川監督自身は、「私は逆に、広島原爆についての情報が入りすぎて、むしろシャットアウトしたいような感覚でした。子どものころから、『もう嫌だ』と思っても身近に話があふれている、というのが広島のスタンダードでしたから」と振り返る。その一方で、「局地的には戦争教育が連綿と続いているものの、他の地域とは全く断絶されているんだな」とも感じていたという。

そこで子どもたちには、東京大空襲の資料館を訪ねたり、『火垂るの墓』(88)など子ども向けのアニメ映画を観たりして、最低限のことを知ってもらった。ただし、伝え方には細心の注意を払った。

【写真を見る】西川美和監督も感嘆!「映画の神様からのご褒美」と称した新星に注目
【写真を見る】西川美和監督も感嘆!「映画の神様からのご褒美」と称した新星に注目[c]2026 K2 Pictures・AOI Pro.

「『こんなにひどい目に遭ったんだ』『私たちは戦争の悲劇を語り継がなきゃいけない』と強い口調で言ってしまうと、第一歩として彼らには重たすぎる。というのは、私自身に実感がありました。知るための材料は用意するけれど、感じ方や解釈は子どもたちに任せるという形をとりました」。

小八重は自ら、広島の原爆資料館に行ってみたいと言い出したという。西川監督が大切にしたのは、いまの時代を当たり前だと思わないことだ。「戦争があり、敗戦があっていまがあるんだということを分かってもらえれば、と考えました。葵美ちゃんも、同世代の学校の友達みんなに観てほしいと、言ってくれました。子どもが主体的にそう感じてくれる映画になっているのならば、作った甲斐があったなと思いました」。

「記号的なインプットをなるべく解除したいと思いました」

西川監督と戦争映画との距離を尋ねると、「職業柄観ますけれど…」と少し言葉を濁した。今村昌平監督の『黒い雨』(89)や関川秀雄監督の『ひろしま』(53)などは「ずっと後になってから観ました。正直、あまり進んでは観たくないですよね。とにかく苦しいですから」と明かす。「たぶんそれが日本全体の雰囲気だと思うんです。戦争を直に知らない親としても、子どもに観せたい戦争映画や、子どもが観たいと思う戦争映画は、いまはあまり多くはないんじゃないでしょうか。逆に好きな戦争映画は、シドニー・ルメットの『未知への飛行』。キューブリックの『博士の異常な愛情』と対になるような作品で、1シーンも戦場は出てこないし、人が死ぬ風景もないけれど、核兵器の恐怖をバシッと描いていて好きですね」。だからこそ本作では、「戦争映画」という枠から少し距離を置いたという。

「観る人が、知らず知らずのうちに、すっと入っていける映画にしたかったんです。“戦争映画”そのものに拒否反応のある人も多いですし、特にいまの若い親御さんたちは、なんとなく伝えなきゃいけないとは思いつつ、子どものトラウマになってしまうのでは、という躊躇もあるだろうと思います。そこで、どんな表現だったら見せられるのか、ということを考えました」。

役所広司と田中裕子が逃げ出した子どもたちを助ける老夫婦を演じる
役所広司と田中裕子が逃げ出した子どもたちを助ける老夫婦を演じる[c]2026 K2 Pictures・AOI Pro.

戦後80年を超え、現代を生きる私たちの大多数は戦争直後の東京を知らない。映画監督の目で、その風景をどう作り、どう信憑性を持たせ、どう物語に落とし込んでいくのか。写真やカラー化された映像資料のほか、戦後に作られたフィクションも参考にしたが、特に気を配ったのが色味だったという。

「『りんごの唄』が流れ始めたら戦後、というような、記号的なインプットがあるじゃないですか。そういうものをなるべく解除したいと思いました。記号的な見られ方をすると、かえっていまとの距離ができてしまい、“あのカテゴリー”に入れられてしまうからです」。

闇市で暮らすことを余儀なくされた子どもたちを、父親のような大きな愛で受け容れる新興ヤクザの組長、菊沢徹(岡田准一)
闇市で暮らすことを余儀なくされた子どもたちを、父親のような大きな愛で受け容れる新興ヤクザの組長、菊沢徹(岡田准一)[c]2026 K2 Pictures・AOI Pro.


衣装も同様だ。統制の時代で人々が国民服のようなものを着る一方、闇市で稼ぐ少年たちには、意外にも自由になるお金がある。「ボロボロの服を着ていても、着方によってはちょっとおしゃれでかわいく見える、というふうに撮りましょう、と衣装部や技術部にも話しました」。参照したのは、孤児が主人公の『ヒューゴの不思議な発明』(11)。「あの作品ほどは振り切れませんが、色彩を入れることで、古い時代の映画がキャッチーに見えてくるものを目指しました」。

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