日本の人気作家も騙された!?アン・ハサウェイ主演『ヴェリティ/真実』に4人の文筆家が取り憑かれたワケ「どうやらこの映画、一筋縄ではいきません」

日本の人気作家も騙された!?アン・ハサウェイ主演『ヴェリティ/真実』に4人の文筆家が取り憑かれたワケ「どうやらこの映画、一筋縄ではいきません」

リンクをコピー

<コメント>
●浅倉秋成(作家)
「有名作家の代筆? 執筆場所は湖畔に佇む邸宅? 絶対に『何か』が起こる身震い必至の設定から、めくるめく明かされる衝撃の真実。『この手のどんでん返しで来ましたか!』ニヤリと微笑みながらエンドロールを眺めれば、いや待てよと小さな違和感が脳裏で弾ける。ならば、ならば、ならば。帰路までねっとり纏わりつく粘度の高い鑑賞体験。小説家の仕事は『嘘をつくこと』なのです。どうやらこの映画、一筋縄ではいきません。

原作者が小説家であったからこそのトリックであり、同時に小説家でなければ決して陥ることのなかったトリックでもある。作品はときに平然と作者を呑み込み、作者の人生そのものを書き換えていくのだ。私も小説家の端くれとして体の髄が冷える恐怖作品であったが、実は『大切にすべきものの比重を間違えると――』という意味において、普遍的な教訓を孕んだ作品なのかもしれない。誰だって気軽にSNSの時代、ですものね。

ときに『文体』が小説作品におけるリアリティを底上げするように、本作は脚本以上に役者の『顔』が物語に説得力を纏わせていたように思う。このシチュエーションになったら、きっとこの人はこう動いてしまう――を『台詞』や『境遇』以上に、『役者の顔』が悠然と牽引していく。小説原作でありながら、映像作品ならではの妙に満ち溢れていた。ベッドフレームの歯形、ドレスの借用、ピーナッツバターとナイフ。小道具も雄弁だ」

●犬山紙子(エッセイスト)
「愛と官能と格差と承認欲求が入り混じった極上のサスペンス!真実が受け取り手によっていかようにも変わり、人を狂わせる様子は現実の私たちを映し出すかのよう。狂気と苦しみの透明な瞳をした、見たことのない凄みのあるアン・ハサウェイの演技にも引き込まれる。

とにかく目の離せないストーリー展開で最後の1秒まで食い入るように鑑賞しました。ファッショナブルで華やかという印象をアン・ハサウェイに持っていたのでその演技の幅にお脱帽しました。本が売れない経験は私もしていますが、それはそのまま自分自身を世間に否定されているような気持ちに陥りがちです。そんな中、自分のことをわかってくれて、無邪気に承認を与えてくれる素敵な人に出会ったら、依存してしまうということにも非常にリアリティがあり、そういったリアリティに基づいた恐ろしさをずーっと浴び続けられるのがたまりませんでした。

様々な恐ろしさが本作にはありますが、物を書いているものとして一番ゾッとしたのは、最初ゴーストライターを断っていたどこにでもいる善良な主人公ローウェンが、ヴェリティを乗っ取りどんどん真似していく中、偽りの承認欲求が満たされ、最終的には自己と密接に繋がる大切な著作の見た目までがほぼコピーのようになってしまったところです。それは、官能の最中でのベッドボードを噛むことまで真似をしたことよりも衝撃でした」

●山内マリコ(小説家)
「俗悪美とでも言いたくなる粘度のある世界観。女が女を見る悦び。作家の創作の秘密。憧憬と侮蔑がシーソーゲームを繰り返す熟達したケレン味演出。これはとんでもなく…ギルティ・プレジャーを刺激される映画!

ダコタ・ジョンソンのファンなので、彼女が売れない作家を演じるだけで『観たい!』と思いました。あと、人がものを読んだり書いたりしている様子を見るのもフェチ的に好きなので、本作は観る価値がありすぎます。ダコタが大量の創作メモと格闘しながらカードを並べてストーリーを構想していく場面だけでも切り抜き動画にしたくなるほどぐっときました。大成功した作家を演じるアン・ハサウェイの毒っけに笑いつつ、ジョシュ・ハートネットの変わらないガタイの良さに目を奪われつつ…。

アン・ハサウェイ演じるヴェリティが小説を書くようになったきっかけに、この作品の世界観の根幹がある気がしました。恋人の不在に耐えるために、気を散らすために彼女は小説を書きはじめる。そんな動機あるかよ!と思わずつっこんだものの、もしかしたらそういう動機で書かれた小説もあるのかもしれないなぁと。あの自伝がどこまで真実かはわからないけど、その動機づけを思いつけるところに、コリーン・フーヴァーのベストセラー作家たるゆえんがあるのは確かだな、と思いました」

●山崎まどか(コラムニスト)
「自分はこのストーリーの書き手なのか、それとも主人公なのか?書き手だとしたら、ヴェリティの用意した“結末”を書き換えることはできるのか?ベストセラー作家vs駆け出しの新人作家のせめぎ合いは、その構造からしてサスペンス。

原作がベストセラーだけあって、ケレン味たっぷり。結末の解釈をめぐって、読者たちが二手に分かれていまだに戦っているというのも納得です。この映画化作品によって、その論争にさらに火がつくのでは。


作家がストーリーを紡ぐことによってどれだけ他人を操れるか。そこに触れている点が魅力的でした。SNSでデマに踊らされる人も、『情報』というよりも『物語』に弱いのではないでしょうか。女性側の視点で『良き夫』にも『危険人物』にも見えるジョシュ・ハートネットの揺らぎにも注目です」

文/久保田 和馬

作品情報へ

関連作品