有村架純の“お仕事現場”を密着レポート! 最新作『さとこはいつも』沖田修一監督と共に振り返る制作の裏側
沖田監督、芹澤撮影監督らによる細やかな微調整
今作の撮影を務めるのは、第79回カンヌ国際映画祭でピエール・アンジェニュー・トリビュート賞を受賞したことも記憶に新しい名撮影監督の芦澤明子である。沖田監督と芹澤はこれまでも『南極料理人』、『モヒカン故郷に帰る』(16)、『子供はわかってあげない』(21)などで何度もタッグを組んできた。俳優たちが動きながらあれこれと演技を提案する傍ら、沖田監督と芹澤、スタッフたちはカメラを覗きながら「この画はいい」「意外とこの角度もありだね」「この時3人が微妙ないい表情してましたねえ」「ヨリも撮っておきましょうか」「なんか映したいものいっぱいあるなあ」と話し合い、手早く本番で撮影するショットを決定していく。
さて、このシーンで一つの見どころとなるのは、沙都子の出したキャッチコピー案に対して若手の後輩である北島(中井友望)が意見する場面。沙都子は映画を目標の興行収入に届かせるべく、わかりやすいエンタメ感動作のトーンでコピーを書いたが、後輩は「なんか普通になっちゃったっていうか…。わざとダサくしてるっていうか…」と反対意見をぶつけてくる。表情が固くなり、北島に厳しい言葉をかける沙都子。場には気まずい空気が流れる。
これらの台詞のニュアンスを探るため、何度も沖田監督による微調整が行われる。「これはお洒落な人たちの戦争だと思ってるんです。興行と直結するから全員本気なんです」「あ、戦争は言い過ぎたかもしれない。もうちょっと和やかにやってもらって…(笑)」「社長って、若い人の意見を聞きたくて話を振る時があるというか」「もう少し強気っていうか反抗的でもいいかなって」と様々なニュアンスを伝えながら、幾度もパターンを試していく。また、同席していた本物の宣伝プロデューサーに「どうですか、もっと強く言ったりするものですか?」と質問する一幕も。聞けば、この作品のリサーチのために、配給・宣伝を務めるハピネットファントム・スタジオの宣伝会議に立ち合って見学もしたのだとか。最終的に、この台詞にはやや弱気なトーンが採用されることになったようだ。
沖田作品のもつ雰囲気に通ずるような、温かな現場
リハーサル中、社員を演じるキャストたちには細かく設定も伝えられていく。「この2人は親友なんで。同じ映画を観に行ったりね」「わー、俺らそうなんだ!」「(劇中に登場する映画の)主演俳優が出ているドラマは、この女子社員は観てるけど、〇〇さんは観てないだろうね」「それわかるなあ、アハハ」といった和気あいあいとした会話が交わされ、キャスト間の雰囲気も、次第に長年一緒に働く同僚のように馴染んでいくのが伝わってくる。
ちなみに、この時使われた『2万ウォンのプレイボール』の宣伝企画書は、本作の宣伝プロデューサーが作ったものだそう。ターゲットやコピー案などが細かく書き込まれていて、どうりで本物感がある。また、ポスタービジュアルは『さとこはいつも』の宣伝デザインを手掛けるデザイナーが監修し、宣材写真を1日がかりで撮影したとのこと。本編で映った時はぜひチェックしたいポイントだ。
そしていよいよ本番。会議室が狭いため必要なスタッフ以外は室外へ出て、取材班は隣室のモニターを後方から見学する。室内の緊張感はモニター越しにもありありと伝わってきて、誰もが固唾を飲んで見守る。何度もテイクを重ね、10カット目まで進んでいく。会議室には熱気がこもるなか、決して笑顔は絶やさない沖田監督。最終的にこのシーンは12~13カットまで撮影されたようだ。最終カットを撮り終えて出てきた監督やキャスト陣は、興奮交じりの楽しそうな表情で、このような現場の雰囲気づくりこそが沖田作品の人間味あふれるコメディを生み出す秘訣なのかもしれない、とじんわり感動が胸に広がった。
この日の撮影がすべて終了したあと、有村と沖田監督が取材に応じてくれた。沖田監督の作品に出演するのは本作が初となる有村は、どのような想いで撮影に臨んでいるのか。そして、単独脚本によるオリジナル作品となる『さとこはいつも』を手掛けた沖田監督は、どんなこだわりをもって作品と向き合ったのか。作品誕生の経緯やキャラクター設定の意図、役柄へのアプローチにいたるまで、たっぷりと語ってくれた。
