有村架純の“お仕事現場”を密着レポート! 最新作『さとこはいつも』沖田修一監督と共に振り返る制作の裏側
『南極料理人』(09)をはじめ、『横道世之介』(12)や『さかなのこ』(22)など映画ファンのみならず業界内からも愛される作品を数々手掛けてきた沖田修一監督。長編デビュー20周年という節目となる今年、沖田監督が贈るオリジナル最新作『さとこはいつも』が9月18日より公開中だ。これまでユニークな登場人物たちを、あたたかい眼差しで捉えてきた沖田監督が本作で描きだすのは、“3人のさとこ”たちの物語だ。初めての恋を経験し、妄想が止まらない中学3年生の中井聡子(姫野花春)。6年に及ぶ不倫に終わりが見え始め、仕事もスランプに陥っている映画配給会社勤務の西田沙都子(有村架純)。20年に及ぶお弁当作りを卒業し、忘れかけていた夢に目覚める飯島里子(石田ひかり)。年齢も悩みも違う“さとこ”たちが「自分の物語」を書き始めた時、彼女たちの人生が少しずつ交わっていく。
2025年6月、MOVIE WALKER PRESS編集部が銀座にある某ビルで行われた撮影現場へ足を運ぶと、そこには作品の世界観そのものを思わせるような、あたたかく遊び心の詰まった空間が広がっていた。細部にまでこだわりが宿ったセットや、現場の和やかな空気感が伝わるやり取りの様子を、主人公の一人を演じた有村と沖田監督によるインタビューとあわせてお届けする。
映画配給会社を再現した“本物感”あふれるセットがお出迎え!
この日撮影されたのは、有村扮する沙都子が働く映画配給会社「PHOENIX(フェニックス)」で、新作映画の宣伝会議が行われるシーン。指定されたビルの5階でエレベーターを降りると、そこにはごく自然なかたちでオフィスが存在していた。知らずに訪れたら、本物の会社だと勘違いしてしまいそうなエントランスだが、どうやらもうここから映画のセットは始まっているらしい。
輝く銀色のプレートに「PHOENIX」という社名が掲げられ、棚にはいくつもの映画賞のトロフィーが飾られている。壁にずらりと並ぶのは外国映画のポスターの数々。1970年代風のアメリカン・ロードムービー、アンニュイでお洒落な空気のフレンチ・シネマ、ジャッロ風のイタリアン・ホラーなどがある。おそらく過去に配給してきた作品という設定なのだろう。思わず「これ観たことあるかも?」と記憶を辿りそうになるが、もちろんどれも架空の映画だ(ただし、本作の配給会社であるハピネットファントム・スタジオの過去作もいくつか紛れ込んでいる!)。ミニシアター系の雰囲気満点で、本当に老舗の配給会社を訪れたかのようなワクワク感がこみあげてくる。
執務室の中に足を踏み入れると、ますますリアルなオフィスが広がっていた。社員数は30人くらいだろうか、整然と業務机や椅子が配置されている。それぞれのデスクには、まるでついさっきまで誰かが仕事をしていたかのようにファイルや事務用品が置かれ、ふせんが貼ってあったりする。窓際のほうに目をやると、ラックに映画のロゴTシャツがかかっているのを発見。これはさっき玄関に貼ってあったイタリアン・ホラー『テラーナイト』のグッズらしい。キャップやミニうちわ、映画館の物販コーナーなどでよく見かけるポップなども置いてある。足元には、茶紙で梱包されたB5サイズのチラシが所狭しと積んである。さらに、机に置かれた備品の封筒に「PHOENIX」というロゴが入っていることにも驚いた。細かいところまで映画会社らしい風景が再現されている。
その後、宣伝スタッフから「実はもともと映像制作会社だったオフィスを借りて、美術部が撮影用に作り込んでいったんです」と聞いて、この“本物感”にも納得がいった。それなら、本棚に映画雑誌やDVDのパッケージが並んでいたりするのは実際の備品だったりする?と眺めてみたところ、よく見ると一番目立つ場所にはしっかり沖田監督の作品が置かれていて、やはり美術部の意図とこだわりが細部にまで行き届いているのがわかる。いやはや、すごいお仕事だ。遊び心たっぷりで、完成した作品に映り込んでいる小道具に注目して観るのも楽しそう!
そうしているうちに撮影クルーの準備が整ったようで、キャストたちが続々とオフィスに入ってくる。これからのシーンの撮影は奥にある会議室で行われるようだ。部屋の中には、コの字型に長机が並べられ、社員のノートパソコンやタンブラーなどがセットされている。薄暗い照明のもと、プロジェクターから投影された企画書がスクリーンに浮かび上がっている。
全員揃ったところで、リハーサルがスタート。まずは沖田監督から俳優たちへ、今回のシーンについてざっとおさらいが行われた。このシーンでは、社長や社員あわせて10名が参加し、新作映画『2万ウォンのプレイボール』の宣伝会議が行われる。宣伝プロデューサーとしてプレゼンを務めるのが、有村演じる沙都子だ。
この日で撮影5日目となる有村は、沖田監督の説明を受けながら、プレゼンを進めていく流れを確認する。30代の中堅社員ということで落ち着きはありつつも、意志の強さや確かな情熱を感じる口調だ。一通りプレゼンが終わると、次に川瀬陽太演じる松永社長の声かけでポスターデザインのラフを少し離れた場所から眺める展開に移り、全員立ち上がって部屋の端に移動する。最初は遠目に見て、それから近づいて見る。こういった俳優たちの動きや表情を、沖田監督は色々な位置へ歩き回りながらその目で確かめ、カメラポジションを探っていく。腰をかがめてみたり、横にずれて膝をついてみたり。口元には笑みが浮かんでおり、もしかするとこのコメディライクなシーンを誰よりも楽しんでいるのかもしれないと思える。
