『ルックバック』だけじゃない!『空気人形』『海街diary』など原作漫画の世界を拡張してきた是枝裕和のまなざし
是枝裕和が実写ならではの手法で拡張した『ルックバック』の世界
そして、是枝監督による漫画原作の最新作となるのが『ルックバック』だ。2024年には劇場アニメ版が公開され、第48回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞。是枝監督による実写版もまた、第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品されている。
学級新聞で4コマ漫画を連載し、周囲からその才能を絶賛されていた小学4年生の藤野。ある日、不登校の同級生である京本が描いた漫画の圧倒的な画力に打ちのめされた彼女は、どれほど訓練を積んでも京本には敵わないことを痛感し、一時漫画を描くことを止めてしまう。しかし、ひょんなことから京本が藤野のファンであることが発覚し、2人は漫画を通してかけがえのない時間を共有していく。
是枝監督とは「舞妓さんちのまかないさん」以来のタッグとなる出口が藤野を、そして京本を『海よりもまだ深く』(16)、『三度目の殺人』(17)、『万引き家族』、「舞妓さんちのまかないさん」など是枝作品に何度も出演してきた蒔田が演じる。是枝監督にとって、『ルックバック』も「すばらしい原作に出会ったことからスタート」した作品だ。コロナ禍の際に偶然立ち寄った書店で原作と出会い、物語と作り手の覚悟に深く心を動かされたという。これまで人と人が関係を築いていくプロセスにフォーカスを当ててきた監督は、原作の大きな魅力である漫画を描くことへの喜びや苦しみ、そして藤野と京本が育んでいく絆を時間と空間のなかに丁寧に落とし込んだ。
1人で描いていたペンの音が、やがて2人分に重なっていく音の演出や、雪を踏み分けコンビニへと急ぐ2人の姿など。実写ならではのアプローチでスクリーンに活写された13年にわたるかけがえのない時間は、秋田の牧歌的な風景と相まって清らかで瑞々しい。好きなものにただひたむきに向き合う藤野と京本の姿が尊くも愛おしく、だからこそ、やがて2人が直面する出来事がせつなく胸に迫るのだ。
原作ものの映画化にはオリジナル脚本以上にプレッシャーを感じると語る是枝監督は、原作を大切にしながら、作品ごとに異なるアプローチでその魅力を映像に落とし込んできた。そんな監督が藤本タツキの人気作に新たな血肉を与えた『ルックバック』。ぜひスクリーンでその世界を味わってほしい。
文/足立美由紀
