漫画家・文筆家・画家ヤマザキマリが映画『オデュッセイア』と描き下ろしイラストでコラボ!「生きていくのが困難な現代のヒントが山ほど描かれている」

漫画家・文筆家・画家ヤマザキマリが映画『オデュッセイア』と描き下ろしイラストでコラボ!「生きていくのが困難な現代のヒントが山ほど描かれている」

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前作『オッペンハイマー』(23)で第96回アカデミー賞を席巻したクリストファー・ノーラン監督の最新作が、古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスによる一大英雄譚を映像化した『オデュッセイア』(9月4日~10日IMAX先行上映、9月11日公開)。「古代ローマ文明の根幹はそもそも古代ギリシャ文明にあり、彼らの神話や哲学は古代ローマ人の模範だった」。そう語るのは、「テルマエ・ロマエ」や「プリニウス」など、古代ローマを舞台にした作品で知られる漫画家、ヤマザキマリだ。かねてからノーラン作品に注目してきたというヤマザキと本作とのコラボレーションが、主人公オデュッセウスをイメージしたイラストの提供という形で実現した。これにあわせて、彼女が独自の感性と知識で掴み取った映画の見どころについて訊いた。

「ノーラン流の解釈がしっかり表現されている」

まずは、映画を観終わっての感想である。「原作は2800年前に書かれた歴史的大ベストセラーなので、解釈も時代によって多様に変化しますが、今回のノーラン版の『オデュッセイア』は原作の持ち味を活かしつつ、現代的テイストもいろいろなシーンで感じました。もし、ノーラン監督が撮ったこの映画を2800年前のギリシャ人に見せたら、彼らの知る原作とはどこか違う印象を持つかもしれません。というのも、原作は抽象的な英雄譚ですから、読み方も読者によってそれぞれ違ってきます。今回の『オデュッセイア』ではノーラン流の解釈というものがしっかり表現されているように感じられました。戦略家の重圧とか、自分のせいでたくさんの人が死んでしまったことへの悲しみといった主人公の苦悩には、どこかキリスト教的な倫理観が潜んでいるように思えて、そこが現代的な描き方だと感じました」。

ギリシャに属するイタケの王であり、「トロイの木馬」作戦の立役者オデュッセウス
ギリシャに属するイタケの王であり、「トロイの木馬」作戦の立役者オデュッセウス[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

「知性と体力を完全燃焼させ目的を果たそうとする、当時の理想的な人間の生き方」

主人公はギリシャの英雄オデュッセウス(マット・デイモン)。トロイアとの10年におよぶ戦争を、巨大な木馬を用いた作戦で勝利に導いた。しかしその後、神々の怒りを買い、彼は故郷イタケへの帰路においてさらに10年もの間、大海原をさまようことになってしまう。

オデュッセウスについてヤマザキは、時代を超えて人々を勇気づける魅力があると語る。「当時のギリシャ悲劇では、ヘラクレスもそうですが、主人公はヒーローというよりも、誰しも向き合うことになるかもしれない苦難や試練の象徴であり、彼らのそうした生き様を知ることが、人々の生きるモチベーションになるわけです。そういう意味で『オデュッセイア』という抒情詩は大変成功した一例で、だから2800年経っても読まれ続けているのだと思います。オデュッセウスはいくつもの試練にも打ち勝ち、ありとあらゆる知性と体力を完全燃焼させながら目的を果たそうとする、当時の理想的な人間の生き方なのです」。

ギリシャ神話における英雄たちは生きる苦難や試練を象徴している
ギリシャ神話における英雄たちは生きる苦難や試練を象徴している[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

「アンティノオスは原作ではあれほど嫌な奴ではないが、現代では効果的」

ほかに印象的なキャラクターをいくつか挙げてもらった。「たとえばアンティノオス(ロバート・パティンソン)は原作ではあれほど嫌な奴として描かれていませんが、やはり現代の映画ではあれくらいのキャラにする方が効果的ですね。ゼンデイヤが演じるアテナも印象的でした。アテナは軍事と知性を司る女神でもあり、原作では彼の過酷な旅をサポートする役割で出てきますが、本作ではオデュッセウス自身の心理的幻影という立ち位置になっているところが斬新でした」。

イタケの王宮を占拠し、ペネロペに求婚し続ける野心家アンティノオス
イタケの王宮を占拠し、ペネロペに求婚し続ける野心家アンティノオス[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

原作に登場する個性的なクリーチャーたちも見どころで、ノーラン流の解釈でアレンジされているとヤマザキは分析する。「一つ目の巨人、キュクロプス(サイクロプス)は歴代多くの画家が描いてきた人気の怪物ですが、ノーラン版の佇まいにはなんだか哀愁が感じられて。怪物という脅威よりも、孤独にしか生きていけない運命を背負ったもの寂しい雰囲気に惹かれました」。


一行が上陸する島々には危険な怪物や異形の存在が潜んでいる
一行が上陸する島々には危険な怪物や異形の存在が潜んでいる[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS
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