全編IMAXで撮影したクリストファー・ノーラン監督作『オデュッセイア』は、やはりIMAXで観るべき映画だった!
『オッペンハイマー』(23)でアカデミー賞7冠に輝いたクリストファー・ノーラン監督最新作『オデュッセイア』が9月11日(金)に公開される。古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩を基に映画化した本作は、“トロイの木馬”でおなじみトロイア戦争の英雄オデュッセウスの旅路を描いたアドベンチャー超大作だ。18年にわたってIMAXを取り入れてきたノーランは、今作で初となる全編IMAXフィルム撮影を敢行。圧倒的な没入感だけでなく、ストーリーテリングやテーマにもラージフォーマットを活かした本作は、まさにIMAXで観るべき作品だ。
“トロイの木馬”作戦でトロイア戦争を勝利に導いたイタケの王オデュッセウス(マット・デイモン)は、王妃ペネロペ(アン・ハサウェイ)や息子テレマコス(トム・ホランド)が待つ故郷を目指し出航した。しかし旅の途中で神々の怒りに触れたオデュッセウスは、次々と試練に見舞われ多くの家臣を失ってしまう。王が消息を絶って10年、イタケではアンティノオス(ロバート・パティンソン)ら王位を狙う多くの求婚者がペネロペのもとに押しかけていた。
木馬、トロイアの陥落、手漕ぎの帆船、一つ目の怪物…IMAXのスクリーンで際立つ、リアルな映像表現の力強さ
ノーランの映画哲学のひとつがリアルな映像表現の追求。デジタル化により不可能な表現はなくなったが、ノーランはつねに思い描いたイメージを視覚化する最適解はなにかを模索。CGありきではなく、実物が使えるなら実物を、それが無理ならセカンドベスト、サードベストはなにかを考える。フィルム撮影を続けているのも、0と1の信号で表現するデジタルに対し無限の諧調を持っている化学反応へのこだわり。そんなノーランのスタンスが今作にも貫かれている。
本作でまず圧倒されるのが木馬のシークエンスだ。IMAXの特長は、シネマスコープの2.35:1より縦方向に広い1.90:1(フィルム撮影は1.43:1)の画角。上下にもスクリーンが広いIMAXシアターは、映画の中に入り込む感覚になる。撮影にあたってノーランは、約10mのフルスケールで木馬を制作。空にそびえる巨体を見上げるカットは、高さのあるIMAXで観ると圧倒的な威圧感で迫りくる。トロイア軍との激しいバトル、炎上した塔や建物が倒壊していくトロイア陥落など、広い画角を活かした体感的な見せ場が次から次に登場。内面描写や思考の視覚化でIMAXが威力を発揮した『オッペンハイマー』から一転、今作はスペクタクルを押し出している。
勝利を手にしたオデュッセウスとその家臣は、故郷イタケを目指して船を出す。航行シーンは全長30mを超える手漕ぎの帆船を調達し、波の高い外洋に乗り出し撮影。巨大な船が荒波を受けながら進む臨場感あふれる映像に、あらためて自然の力を思い知らされる。近年は「アバター」シリーズや『ゴジラ-1.0』(23)で緻密にシミュレーションされた海の描写が話題になりアカデミー賞視覚効果賞にも輝いたが、リアルな映像の持つ力強さは別格だ。重苦しい雲がたちこめた空と波に翻弄される船、荒れた海をひとつに収めた映像から伝わってくるのは、解放感や爽快感ではなく人間の弱さや小ささ。全身を包み込む立体的なサウンドと相まって、過酷な旅が体感できる。
オデュッセウスを襲う神々の脅威の代表格が、海の神ポセイドンの息子キュクロプスだ。食料や水を求めて見知らぬ浜辺に降り立った一行は、そうとは知らず一つ目の巨人キュクロプスの棲み処に立ち入ってしまう。人間を軽々と持ち上げ頭から喰らいつくキュプロクスは、特殊メイクをしたビル・アーウィンと実際の洞窟内で操った10mもの巨大パペットで撮影された。アーウィンは『インターステラー』(14)で鉄板のようなロボットTARS “ターズ” の声優を務めていたパントマイム出身の俳優で、その個性的な振り付けはロープで操るマリオネットの動きと見事にマッチ。薄暗い洞窟のロケーションも手伝って、不気味なキャラクターに仕上がった。
そんなキュクロプスと兵士たちを一緒に収めたカットは、その巨体や洞窟の天井など縦方向を意識した画作り。スケール感ではなく洞窟に閉じ込められた閉塞感を強調するためIMAXの画角を活かした撮影は、『インターステラー』以降ノーランとコンビを組んでラージフォーマットの限界に挑んできたホイテ・ヴァン・ホイテマが担当。洞窟から脱出したオデュッセウスらを追いかけるシーンも臨場感があり、逃げる兵士の背後の木々の上に怒り狂ったキュクロプスの頭がのぞく縦を活かしたカットも迫力満点だった。一方、6つの頭を持つ怪物スキュラはCGがメインに使われており、同じクリーチャーでもキャラクターによってベストな手法を使い分けているのがわかる。

