大作を撮り続けるなかで感じた“渇き”… ヨン・サンホ監督とパク・ジョンミンが明かす『顔 -かお-』自主制作への挑戦
「映画の美学とは『プロダクションにおける欠乏』なのかもしれない」(ヨン・サンホ監督)
――今回、時間やスタッフの制約があるなど低予算での製作という環境下で、今後の糧となった経験や発見はなんですか?また、最も苦労した点はどこでしょうか?
ヨン・サンホ監督「私はキャリアの初期にインディペンデントのアニメを作っていましたが、インディペンデントで実写作品を撮るのは初めてだったので、クオリティを担保できるのだろうか…という不安はありましたが、それ以上に、新しいことにチャレンジしたいという想いが強かったのです。そしてパク・ジョンミンさん、クォン・へヒョさん、シン・ヒョンビンさんといったすばらしい俳優たちと、商業映画の世界でもトップクラスのスタッフたちが集まってくれたので、撮影に入ってすぐに、その不安は消えました。この映画の製作で気づいたのが、ある意味、映画の美学とは『プロダクション(映画製作)における欠乏』なのかもしれないと思いました。予算がないなか、それを埋めるべく現場にいる人たちが数多くのアイデアを出し合ってくれました。俳優陣も無駄なくスピーディに撮らなければいけない環境に置かれ、短時間でできる限りの能力を発揮しようと努めてくれました。プロダクション的な欠乏がむしろ役立っていたのではないかと思いましたね」
パク・ジョンミン「商業的なプレッシャーは比較的少なく、そういう意味では演技における自由度が広がったと感じました。一定以上の動員数を確保するために、安定的な選択をする必要がないというメリットがあったと思います。苦労したのは撮影の時間が足りないということ。僕の場合、自分が感じる‟演技の正解“に近づくためにどうすべきか?という大きな不安を抱えている人間なので、テイクの数が多ければそれだけ気持ちも落ち着きますし、安全だと思えますが、今回はテイクを重ねられないという状況だったので、自分の不安をコントロールするのが難しかったですね」
――先ほど黒沢清監督や片山慎三監督の名前も挙がりましたが、改めてヨン・サンホ監督にとって大切な日本の作品や作家を教えてください。
ヨン・サンホ監督「たくさんあるんですけど、『ガス人間』を作る際に、奥田英朗さんの小説『オリンピックの身代金』から大きな影響を受けました。また、『ガス人間』や『地獄が呼んでいる』では、漫画『20世紀少年』の影響もあったと思います。一方、『顔 -かお-』を振り返ってみると、劇画の創始者とも言われる、漫画家の辰巳ヨシヒロさんからも多大な影響を受けましたね。また、製作に入る前に、低予算でいかに時代を見せるかという部分について『血と骨』を繰り返し観ました。なにか巨大なものではなく、街角や小さな町一つで、その時代の流れを見せることができると思えました。以前から塚本晋也監督が大好きですし、日本の作品からは様々な影響を受けています」
――顔を知らない母親が白骨死体として突然戻ってくるという強力なフックがある作品ですが、このお母さんの存在について、お2人はどう捉えていますか?
ヨン・サンホ監督「戻ってくる、という言葉が合っているなと思いました。最初にお母さんが白骨の状態で戻ってきますが、その時、息子ドンファンのなかにはこれといった感情はなかったと思うんです。でも、お母さんの足跡をたどる過程で、母親がチョン・ヨンヒという一人の女性であることを受け入れていくわけです。韓国には『コク(哭)』という文化があります。誰かが亡くなると、葬儀の時に『アイゴーアイゴー』と言いながら泣くんです。特に感情があるわけではなく、嘆くだけなんですけど。最初にドンファンが遺体を見た時は、別に感情はなかったと思うのですが、お母さんのことをたどっていく最後に、彼の心の中から出てくる『コク』というものを、この映画で描きました」
パク・ジョンミン「イム・ドンファンという人物を演じていて難しいなと思ったのが、彼はそれまで不満もなく幸せに過ごしていましたが、母親が白骨で戻ってきて、自分のルーティンが崩れてしまうんですね。そのことに彼は不満を感じていたと思うんです。とにかく早く生活を整理したい、と尽力するわけです。でも、彼がすごいのは、40年間存在すら知らなかった人物を捜しにいくことです。もちろん、自分が望んでそうするわけではなく、番組のプロデューサーに言われてついていくわけですが、そういう彼の行動を見ていて、思っていた以上に育っててくれた父親のことを愛していたんだなと思いました。もし自分だったら、彼と同じような選択はしなかったのではないかと思います」
