『オークストリートの異変』公開前に知りたい!夢のような奇妙な世界を紡ぐ鬼才、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督とは
8月14日(金)の公開が近づいてもほとんど情報が出ていない、ベールに包まれた作品として話題を集めている『オークストリートの異変』。製作を務めたJ・J・エイブラムスはもちろん、映画ファンにとって見逃せないのが、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の存在だ。カンヌを騒然とさせた怪作『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)以来、実に8年ぶりの待望の新作ということで、鬼才デヴィッド・ロバート・ミッチェルとはいったい何者なのか…?ここでそのキャリアを振り返っていきたい。
名作の続編をオリジナルで妄想!映画大好きなキャリアをチェック
1974年にミシガン州で生まれ育ったミッチェルは、小さい頃から映画業界を志し、オリジナルの『ゴーストバスターズ2』を執筆するなど中学生の頃に脚本作りをスタート。高校生になると短編映画を撮り始め、その後はフロリダ州立大学、ウェイン州立大学で映画を勉強。ロサンゼルスに定住すると、映画の予告やコマーシャルを手掛ける編集者やマーケティングの仕事から業界に足を踏み入れた。
2002年には聖母マリアの幻影を見た人物が真実の愛を追い求めるという短編『Virgin』を手掛けると、2010年に『アメリカン・スリープオーバー』で長編デビューを果たし、映画監督としてのキャリアを本格的にスタートさせた。
青春のきらめきを切り取った『アメリカン・スリープオーバー』
記念すべき長編1作目となった『アメリカン・スリープオーバー』は、アメリカではおなじみのティーンカルチャー“スリープオーバー(お泊まり会)”を題材に、新学期を控えた夏の終わりを過ごす少年少女たちのひと時をみずみずしく描く青春群像劇。
舞台となるのは監督が生まれ育ったデトロイト郊外の小さな街クローソン。同世代とのスリープオーバーを蹴って年上のパーティに参加するおませな少女、スーパーで一目惚れした女性を探してパーティを渡り歩く少年、帰省中に再会した双子の姉妹の間で揺れる大学生、なじむために参加したスリープオーバーで問題を起こしてしまう転校生の少女…という4人を中心に、ほろ苦くも淡い一夜が紡がれていく。
無邪気に好意を向けてくる双子の姉妹をはじめとするキャラクター像に加え、リアルと幻想が入り混じった手触り、希望と諦念を行き交うようなエモーションなど、『The Myth of the American Sleepover』というタイトルの通り、ティーンが織りなす美しくも気まぐれな青春模様を俯瞰した視点から“神話”として描いた。
その名を一躍知らしめたホラー『イット・フォローズ』
インディペンデントゆえに知る人ぞ知る作品だった『アメリカン・スリープオーバー』から4年、日本でその名を知らしめたのが『イット・フォローズ』(14)。捕まると死んでしまう正体不明のなにか「それ」に付け回される若者たちを恐怖が襲うホラーだ。
大学生のジェイ(マイカ・モンロー)は、デートを重ねた男性と一夜を過ごす。しかしその後気絶させられ、椅子に縛られた状態で目を覚ますと、性行為によってある“呪い”をうつされたことを知る。その呪いとは、様々な人間に姿形を変え、歩きながら迫ってくる「それ」に死ぬまで追いかけられるというもの。友人や妹たちと共に「それ」から逃げるジェイだったが、逃げるだけの状況に痺れを切らし、ついに反撃を決意する。
『大アマゾンの半魚人』(54)や『エルム街の悪夢』(84)、『遊星からの物体X』(82)など、監督が好む名作のエッセンスに対し、セックスを媒介に広がっていく脅威という設定は斬新。また呪いを移しても相手が死ねば戻ってくるという不条理さ、ティーンの抱える漠然とした不安感など、人生につきまとう要素を不穏な映像を介して巧みに表現した手腕は、インディペンデント・スピリット賞で監督賞にノミネートされるなど高く評価された。
陰謀論にハマるオタク青年を描くL.A.ノワール『アンダー・ザ・シルバーレイク』
『イット・フォローズ』で大ブレイクを果たしたミッチェル監督が、アンドリュー・ガーフィールドを主演に迎え、A24から放った怪作が、ハリウッドの闇に囚われていく青年をノワール調で描いた『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)だ。
ロサンゼルス・シルバーレイク、家賃滞納もお構いなしに仕事に就かず空虚な生活を送るオタク青年のサムは、向かいに越してきた美女のサラ(ライリー・キーオ)に一目惚れ。デートの約束を取り付けた矢先、サラは忽然と姿を消し、部屋ももぬけの殻に。そこで謎めいた暗号を見つけたサムは、巷で起こる大富豪の死や犬殺しといった事件と彼女の失踪を結びつけ、探偵気分で陰謀めいた謎の裏側に迫っていく。
『ロング・グッドバイ』(73)や『めまい』(58)、『チャイナタウン』(74)といった作品に加え、ブライアン・デ・パルマ的な演出やデヴィッド・リンチ的LA観、さらにはトーマス・ピンチョンの陰謀小説など、多彩な影響が随所に見え隠れする本作だが、その着想元は「金持ちは丘の上に家を構えてなにをしているのか?」という監督の疑問。
ポップカルチャーの光と闇を紡ぎ出していくハリウッド暗黒ノワールは、徐々に謎に迫っていく過程や不穏かつ空虚な手触り、多彩なエッセンスがないまぜになった荒唐無稽さも心地よい。カンヌでの評価はイマイチだったため再編集することになるなど、賛否両論を集める愛すべきカルト作となった。
