イタリアンホラーの巨匠ダリオ・アルジェントも登壇!『Love Circle』4Kレストア版がカンヌで上映!実はジャーロへの目配せも!?
フランス現地時間5月23日に閉幕した、第79回カンヌ国際映画祭。今年のカンヌ国際映画祭クラシック部門で注目を集めた作品が2本ある。一本が、ケン・ラッセル監督の『肉体の悪魔』(71)4Kレストア版。もう一本が、イタリア映画『Love Circle(英題)』(69)の4Kレストア版だ。
『Love Circle』の上映前には、共同で脚本を手掛けたダリオ・アルジェントがゲストとして登壇するとカンヌの公式サイトに書かれていたが、飛行機嫌いという噂がある85歳のアルジェントが本当に南仏に来るのだろうか?と、半信半疑のまま運よくチケットが取れたので上映日当日、会場のブニュエル劇場に駆けつけた。場内に入ると、確かにアルジェントの姿があった。そして上映前にアルジェントとカンヌ映画祭のチーフ、ティエリー・フレモーのトークセッションが行われたが、言語はフランス語で英語通訳はなし。フランス語をもっと勉強しておけばよかった...と後悔しても時すでに遅し(途中でモリコーネについて話し合っているのはわかった)。
ストーリー。劇作家として成功を収めるブルジョアのマイケルは、密かに美しき妻ニーナと親友でバイセクシャルのマックスが関係を持つことを夢想していた。実はマイケルの知らないところで、ニーナとマックスは数年間にわたって恋人同士であり、この関係を通じて、マックスはマイケルのことを本気で愛していたのだった(!)。ニーナがマックスを独占している一方で、マイケルはリッチで孤独な女性と関係を持つようになる。4人は定期的にマイケルとニーナの自宅でディナーを共にし、道徳観念のない退屈な会話にふけるのであった。そこにマックスの友人でアナーキストの詩人リックが登場、彼はニーナに恋に落ちてしまい...。
1960年代に始まった性解放運動やフリー・ラブを背景に、70年代の性革命を予見したかのようなビザールでセンセーショナルな不条理コメディであり、ジャンル映画である。モラルの限界に挑戦したかのような、官能的で過激な題材を扱っているが、全体的にゆったりとした動きに乏しい1960年代の映画ということで、125分という長めの尺もあり、たまに睡魔を誘うが、時折珍妙なシーンが繰り広げられるので油断できない。その象徴が、郊外でマックスとニーナが一緒に過ごしている時、道端でニーナの愛犬の巨大な糞を高そうな革靴で派手に踏んでしまったマックスが怒り心頭、その靴をニーナに投げつけるが、彼はそのまま田舎に置き去りにされ、片手に革靴を持ったままニーナの車を追いかけるという、反応に困るシュールなシーンなどが挙げられる。この映画は1969年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映されパルム・ドールを競った。なんともワイルドな時代だったのだな、と感嘆せざるをえない。
全体的に暗いイメージながら、イタリア映画らしいスタイリッシュな映像も要所で目につくが、たまにジャーロ映画の匂いも感じさせられ、驚嘆した。ジャーロの原点と言われるマリオ・バーヴァ監督の『知りすぎた少女』(63)を思わせる、女性の目のアップの映像が顕著で、『サスペリア』(77)の魔女を彷彿とさせるギョッとするようなエキセントリックな女性も登場する。監督のジュゼッペ・パトローニ・グリッフィは『さらば美しき人』(71)や『サイコティック』(74)、『悦楽の闇』(75)といった主に官能的なラブストーリーでメガホンを取った人物であり、ホラーやジャーロには縁がない。これはやはり、共同脚本で参加したダリオ・アルジェントの影響があったのではないか。アルジェントが監督デビューするのは、この作品が発表された翌年、1969年のジャーロ『歓びの毒牙』だが、同作で主演を務めたのが『Love Circle』の主人公マックスを演じたトニー・ムサンテだ。
巨匠エンニオ・モリコーネの洒脱でムーディな音楽も印象深いが、モリコーネはこの1969年に公開された23本の映画のスコアを担当していたというから驚きである。よほど気力が漲り、才気がほとばしっていたのだろう。モリコーネは同年『歓びの毒牙』で、アルジェントと初のコラボレーションを果たしている。
今年のカンヌでは、アルジェントがプロデュースを務めるイタリアのスリラー3部作『Flesh of My Flesh(英題)』、『The Girl with Crystal Eyes(英題)』『The Black Velvet Mask(英題)』の製作が発表された。『Flesh of Flesh』はローマで撮影中ということで、会見でその映像を一部披露。『The Girl with Crystal Eys』は今秋クランクインし、『The Black Velvet Mask』は2027年に製作が始まるという。プロデュース作も楽しみだが、アルジェントに監督最新作を求めるのは、もはや無理な願いなのだろうか?
ちなみに、『Love Circle』の上映をアルジェントは最前列で観ていたのだが、僕はその斜め後ろに座っていた。上映中、何度か気になってアルジェントの様子を確認してみたが、真剣に映画を観ていた。ひょっとして寝ているのでは、と思ったのだが、そんなことはまったくなかった(目を開けたまま眠るという秘技を持っている可能性もあるかもしれないが)。終映後、アルジェントは観衆から万雷の拍手を受けて笑みを浮かべていた。偉大なるホラー・マエストロの、現在の元気な姿を間近で目撃できただけでも南仏カンヌまで来た甲斐があったな、としみじみと感慨にふけった夜だった。
文/小林真里

