不思議な力を持つ男が殺戮を繰り返す『名無し』を犯罪心理学者の出口保行が解説!「主人公の山田太郎は“無敵の人”」
「警察も予測できない “犯罪者の素人化”が進んでいる」
映画の内容から少し離れるが、犯罪者を更生させるためにはどうすべきなのだろう?そう問うと、出口教授は「内省を深める。これに尽きますね」と語ってくれた。
「犯罪者は自分で軌道修正することがほぼできない。反省するのは得意なんですよ。とりあえず謝ればいいって思っているから。でも、内省は自分の何が原因でいまの事態が起きているのかを考えさせる心理療法ですから、反省とはまったく違う。それを徹底的にやる。『考えとけよ!』って言ってできるものではないから、ただじっと座って、頭のなかでいろんなことを考えさせる“内観療法”をするんですけど、そういう手続きを踏まないと内省はなかなか深まるものではないんです」。
「犯罪心理学って犯罪を分析するのが仕事じゃないんです」。出口教授はそう念を押してからさらに続ける。
「そう思っている人も多いけれど、犯罪心理学にいちばん求められているのは犯罪者の心を分析し、その結果から更生させるためのプログラムを作ることなんです。なかには内省を深めて自己分析するのにとても時間がかかる人もいるけれど、そこをちゃんとやらないとその先をやっても意味がない。人の心なんて、自分でもわからないでしょ。だから、毎日のように面接しながら『これはどう思った?』『この時どう感じた?』と聞いて小さなきっかけを作り、その点を線にしてあげる。それが私たちの仕事ですけど、そこに決まったパターンがないから、100人いたら100通りのプログラムを考えなければいけないんです」。
「と同時に、相手の気持ちがわかるようにする。共感性を持たせることも必要です」と語る出口教授の言葉がますます熱を帯びてくる。「対人関係をどうすれば持たせることができるのか?グループ行動の経験がない犯罪者が多いし、刑務所でも独居房を希望して自分の部屋で作業をする人間がいまの時代はいっぱいいるんだけど、それじゃ社会性は身につかない。なので、なるべく外に連れ出して、集団のなかで各々の能力を発揮させていく。刑務所の作業もそうした社会性を身につけるために考えられたものが多いですからね」。
そんな出口教授らの尽力によって、日本で起きる犯罪は平成14年をピークに減少し続け、再犯率も下がっているようだが、“無敵の人”の犯行スタイルが増えてきているのも事実だという。
「“犯罪者の素人化”が進んでいる。これまでは犯罪を起こしそうな人の情報を警察がつかんでいたから、ある程度犯行を予測できていたけれど、いまは突然犯罪者になってしまう人が多い。そうなると防ぎようがないんです。軽い気持ちで犯罪に手を染める人たちとは違う“無敵の人”だから、その行動は察知できない。それに、SNSで自分を支持する意見は取り入れるけれど、非難する意見はすべて捨て去る“確証バイアス”を発動させて自己中な行動を正当化する傾向にもある。これは大きな問題です」。
では、どうすればいいのか? そんなに簡単に答えが出る問題ではないのを重々承知で尋ねると、出口教授は躊躇することなく返答した。
「そうした犯罪者に社会的な啓蒙が足りないのは事実。それを伝えなかったら、素人の犯罪はなくならない。社会がどんどん変化しているいまの世の中の状況に対応しきれてないから、“無敵の人”が次々に出てくるわけなんです。日本の社会が現状をちゃんと把握し、人々の暮らしの歪みをなくしていくことが今後の大きな課題じゃないのかなと思っています」。
取材・文/イソガイマサト

