『名無し』で佐藤二朗がまたもや怪演で魅了する…!出会ったら終わり“危険人物”だらけの傑作邦画スリラー5選
俳優、脚本家、映画監督としても活躍する鬼才、佐藤二朗が初の漫画原作を手掛け、脚本、主演を務める映画『名無し』が5月22日(金)より全国公開される。本作は佐藤が自ら生み出した、右手に異能を宿した未曾有の怪物“名無し”の希望と絶望、そして狂気を描破するサイコバイオレンスだ。
先日解禁された本予告では、白昼の商店街に“名無し”が右手に握った“見えないなにか”を振りかざし、無差別大量殺人を行う衝撃のシーンが描かれ、SNSを中心に話題を呼んだ。本稿では『名無し』の公開に先駆け、トラウマ級の“危険人物”たちが登場する傑作邦画スリラー5選をご紹介。理性も倫理も通じない、一度関わってしまえば、もう引き返せない邦画スリラーには、観る者の心を深くえぐる強烈な魅力があるので、その不気味な魅力をひも解いていこう。
雨の日にだけ現れ、独自の裁きを下す連続殺人鬼“カエル男”とは?
巴亮介による同名サイコスリラー漫画を原作に、小栗旬主演×大友啓史監督の豪華タッグで実写化された『ミュージアム』(16)。事件を起こすのは雨の日のみという異様なルールのもと、猟奇殺人を繰り返すのが、カエルの被り物を身に着けた通称、カエル男だ。彼は単なる無差別殺人犯ではない。自らを「アーティスト」と称し、歪んだ正義に基づいた独自の“私刑ルール”で次々と犯行を実行していく。その姿は、まさに理解不能。常識が通じない恐怖感と、ルール化された犯罪行為の整然さが、観る者をじわじわと追い詰めていく。
実在の猟奇事件をモチーフに、人間の狂気と支配の構造を描いた骨太な一作
同名の犯罪ノンフィクション小説を基にしたサイコスリラー『凶悪』(13)。獄中の死刑囚が語る殺人事件の真相を、雑誌記者が追っていくなかで、やがて浮かび上がるのは「先生」と呼ばれる正体不明の首謀者の存在。正体不明の「先生」を追ううちに、どんな人間の心にも潜む狂気が浮き彫りになり、衝撃の真相が明らかになっていく。山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーという個性的なキャストが、それぞれの立場から“悪”に向き合いながら、観客の倫理観を揺さぶっていく演技合戦も必見。誰しもが持ちうる悪意の断片を、真正面から突きつけてくる戦慄のドラマ作品だ。
世間を震撼させた連続殺人事件の犯人から届いた依頼は、1件の冤罪証明!
『凶悪』や「孤狼の血」シリーズなど、数々の“危険人物”を描いてきた白石和彌監督作『死刑にいたる病』(22)。本作で描くのは、高い知能と人懐っこい笑顔の裏に狂気を潜ませ、暴力ではなく言葉で人を支配する連続殺人犯だ。彼は容易く社会に溶け込み、言葉巧みに人の心に入り込んで、相手の思考そのものを侵食していく。24件もの殺人容疑で逮捕されたこの死刑囚を演じるのは、阿部サダヲ。語り口もたたずまいも優しく穏やかだからこそ、ときおり覗く視線の奥の異物感が際立つ。気づけば観客までもが、彼の語りに巻き込まれていき、想像を超える事件の真相へと引きずり込まれていく。
古谷実による同名コミックを原作に、森田剛主演で映画化した異色作
理由なき狂気を描く、異色スリラー『ヒメアノ~ル』(16)。本作の異常性は、理由が一切提示されない殺意にある。森田と呼ばれる男は、感情も動機も語らず、ただ日常の延長として人を殺す。そこには物語的な救済も説明も存在しない。吉田恵輔監督が描き出すのは、そんな理解不能な他者と我々が同じ世界に生きているという事実そのものの恐怖である。主人公、岡田の平凡な日常と、森田の無表情な殺意が交錯することで、日常そのものが危うく揺らいでいく。過去も理由も見えないまま、ただ殺意だけが存在するその姿は、まさに出会ってはいけない人間そのものだ。三度の食事をとるかのように、当然のごとく人を殺していくシリアルキラーを演じた森田によるシリアルキラー像が強烈な印象を残す一作。
右手には“見えない凶器”。正体不明の未曾有の怪物を描く話題作
佐藤二朗が映画化を構想するも、その過激なテーマと特殊な世界観ゆえに長らくお蔵入り寸前の状態にあったオリジナル脚本が漫画編集者の目に留まり、永田諒による作画で漫画化。その後、映像化不可能の烙印を覆し、昨年10月に映画化が決定した『名無し』は、まさに異形のプロジェクトとして誕生した。
正体不明の“名無し”を演じるのは、『爆弾』(25)で冴えない中年男の皮を被った知能犯スズキタゴサク役を怪演し、アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を席巻した佐藤。これまでセリフによって強烈な存在感を放ってきた彼が、本作ではそれらを極限まで削ぎ落とし、沈黙と自らの身体表現のみで狂気を体現するという真逆のアプローチに挑んでいる点も大きな注目ポイントだ。
共演には、近年俳優としての評価を高め続ける丸山隆平、タレントの枠を超え女優、プロデューサー、実業家としても活躍するMEGUMI、そして同じ演劇畑出身の佐藤の熱望に応えた佐々木蔵之介ら。さらに、『悪い夏』(25)、『嗤う蟲』(24)などで知られる当代屈指の映画職人、城定秀夫監督がメガホンをとり、都市に潜む歪みと説明不能な暴力の連鎖を鋭く切り取る。見えない刃が光る時、スクリーンの向こうから“名もなき怪物”の魂の叫びが響き、日本映画に新たな恐怖の座標を刻むことになる。
文/山崎伸子
