不思議な力を持つ男が殺戮を繰り返す『名無し』を犯罪心理学者の出口保行が解説!「主人公の山田太郎は“無敵の人”」

不思議な力を持つ男が殺戮を繰り返す『名無し』を犯罪心理学者の出口保行が解説!「主人公の山田太郎は“無敵の人”」

「右手の見えない凶器は彼の“心”を象徴していると思うんです」

孤児だった2人の子どもは巡査に引き取られ太郎、花子と名付けられる
孤児だった2人の子どもは巡査に引き取られ太郎、花子と名付けられるイラスト/小野眞智子

映画では、幼い“名無し”と少女を見つけた交番の巡査・照夫(丸山隆平)が2人に「山田太郎」と「山田花子」という名前をつけてやるエピソードが印象的だ。照夫が何度も繰り返す「人間はひとりじゃない。みんな繫がっているんだから」という言葉も強く心に刻まれるが、出口教授は「名前は社会関係を作っていくためには必要なものです。社会の一員として受け入れてもらえるというのは非常に大きい」としたうえで、それだけではないことを強調する。

「誰かと紐づいてしまうことが本人にとっては重荷になる場合もある。自分から孤立して、孤独に生きていくことを選択する人間も世の中にはいますから。それに名前をつけられたことによって、人としての認知が進んでしまう。誰かに注目されるのはうれしいことでもあるけれど、それを重荷と感じてしまう。そんなアンビバレンツ(二律背反的)な考え方は当然あるし、人と繋がることを好まない人ももちろんいる。ただ、他人と繋がるのがイヤだと思っている人間ほど“無敵の人”になりやすいです」。

右手に持った見えないバットで人々を襲う山田太郎
右手に持った見えないバットで人々を襲う山田太郎[c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

“名無し”=山田太郎の心象をそうひも解いた出口教授は、「佐藤二朗さんのインタビューには『この映画には特別なメッセージはない』とあったけれど、そんなことはないと思います」と訴える。さらに「積もり積もった不安や不満、憤りを凶悪な無差別殺人事件という象徴的な形で提示したいというのがこの物語を書いたいちばんの動機だったんじゃないかな、と私は思います」と、自身の見解を述べ、さらに興味深い持論を展開する。

「山田の右手の見えない凶器は彼の“心”を象徴していると思うんです。“心”って見えないじゃないですか?みんな持っているけれど、可視化することができない。いろいろな解釈がもちろんできるけれど、私は犯罪心理学者だからあの右手に“心”を見てしまう。ダークサイドにある“負”の感情を象徴していて、それを使って攻撃行動に出ているんだという見方をしたんです」。

【写真を見る】不思議な力を持つ山田太郎の右手が意味するものとは…犯罪心理学者の出口保行が解説!
【写真を見る】不思議な力を持つ山田太郎の右手が意味するものとは…犯罪心理学者の出口保行が解説!イラスト/小野眞智子

佐藤二朗はインタビューで「こんなことがあっちゃいけない!」という思いで殺戮シーンをよりリアルに生々しく描いたと語っていたが、出口教授も「そこがいまの時代を象徴している」と強調する。


「社会が変わらなければ、ああいう犯罪はなくならない。いまの世の中は犯罪者が更生しにくい環境でもあるということですけど、社会が受け入れてくれないから結局また同じ犯罪をしてしまう。『犯罪者』『悪い奴』と分類される“ラベリング現象”が発生すると、社会復帰は本当に難しい。社会が彼らをどう受け入れるのか?本人が受け入れてもらうためにどう努力するのか?そのふたつを足し算ではなく、掛け算で考えていかないとダメなんです」。

佐藤二朗が生み出した衝撃のサイコバイオレンス!『名無し』特集
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