黒沢清監督『黒牢城』の撮影現場に潜入!圧倒された“職人監督”としてのすごさと、初時代劇への想い
「原作がおもしろかったということに尽きます」(黒沢)
“職人監督”としての黒沢監督を目撃することができ、それだけでも貴重な体験であったのだが、やはり一つ疑問が残る。「どうして黒沢清監督が時代劇を監督することになったのか」だ。これをプロデューサーの石田に問うと、現代の世界情勢にも通じるような作品のテーマ性が決め手であると明かしてくれた。
「新たな時代劇への挑戦、ということを目指して、『黒牢城』を製作しようと考えたわけではありませんでした。舞台は戦国時代ですが、この作品は村重と官兵衛の2人による謎解きというミステリーが軸になっていて、その裏に隠れた様々な人物たちの思惑を読み解いていく心理サスペンスのようでもある。村重が謎と対峙する度に『いったいどこに導かれていくんだろう』と引き込まれていく感じが非常におもしろく、映像化への魅力を感じました。また、この作品の“籠城している人”や“囚われた人”の物語、彼らが向き合っている大きな問題は、いまの自分たちが直面している社会の状況や世界情勢と似ているなとも感じました。ある極限状態の中にいる人たちの間に生まれる緊迫感や現代にも通じる普遍的なテーマを潜んでいる作品ならば、是非黒沢監督とご一緒したいと思い、ご相談することにしました。黒沢監督に最初にお話した時は、『僕に時代劇ですか』という感じで驚かれていましたが(笑)」。
これに対し黒沢監督は、「原作がおもしろかったということに尽きます」と作品への強い思い入れを真摯に語る。「もともと時代劇は漠然とやってみたいのはありましたが、時代劇と言えばすぐ浮かぶのはいわゆるチャンバラ。チャンバラをやってみたいという単純な欲望がありましたが、心理劇のような時代劇をやってみたいというのは、原作を読むまでまったく思っていませんでした。ただ原作を読んで、時代性を抜きにした普遍的なテーマと、一種の推理小説のような謎解きのおもしろさに、監督できるものならやりたいと思ったんです」と、オファーを受けた当時を振り返る。
2024年のエミー賞で最多18冠を獲得したドラマ「SHOGUN 将軍」や、自主制作ながら記録的ロングランとなった『侍タイムスリッパー』(23)など、いまや国内外で時代劇に新たな関心が寄せられ、本作も第79回カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門に正式出品が決定している。かつては斜陽と呼ばれていた時代劇製作の現状について、黒沢監督は「時代劇的なドラマは、1970年代、1980年代よりポピュラー」だと持論を話してくれた。
「時代劇映画は予算がかかったり、難しい要素があると思いますが、この時代を扱ったドラマへの関心がなくなっているとは決して思わないですね。むしろ若い方もこういった題材はよく知っている印象もあって、一般に通用するものだろうと信じて進めております。そして、ある種の時代劇にふさわしい俳優は、本木さんを含めて日本にはまだまだしっかりいると感じています。だからキャストの方々は、無理なく戦国時代の人たちになれている、なっているはずだといまは思っています」。
そんな黒沢監督が本作で目指したのは、「まったく新しい一つの時代劇映画の“古典”」。カンヌ映画祭出品に際して到着したコメントでは、本木は「ステレオタイプの侍ムービーではなく、新たな人間ドラマ」、菅田は「時代劇でありながら会話劇でもある、日本でもあまり例のない作品」、吉高は「この作品を海外の方々に届けられることには、確かな意味がある」と、それぞれ本作の新しさとテーマ性に触れていたが、いったいどんな作品に仕上がっているのか?黒沢監督の新たな代表作となることに期待しつつ、6月19日(金)の劇場公開を楽しみに待ちたい。
取材・文/MOVIE WALKER PRESS編集部
