腐った世界を怪物と花嫁がぶっ壊す!痛快ロマンススリラー『ザ・ブライド!』の高濃度なエンタメ性と力強いメッセージ
ゴシックホラーや逃走劇、さらにミュージカルの要素もあるエンタメ映画
本作には多種多彩なジャンル映画の要素が混在していて、観客に広い間口を用意している。クラブでダンスを楽しんだ後、フランクがブライドに襲いかかってきた男たちを殺したことから始まる、逃走者となった2人の道行きは、まるで『俺たちに明日はない』(67)のボニーとクライドのようだ。犯罪を積み重ねて行く傍若無人ぶりから『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)のミッキーとマロリーを連想する人がいるかもしれない。要は、走り続ける逃亡劇の要素だ。
また、フランクが憧れる“マチネーアイドル”ロニー・リード(ジェイク・ギレンホール)の主演作を観るため、ブライドを伴い映画館を訪れるシーンでは、スクリーン上のギレンホールがフレッド・アステアを思わせる優雅なステップを披露。そこから、古き良きハリウッドへのオマージュを感じ取ることもできるし、ニューヨークのパーティ会場でフランクとブライドがリズムを刻んで踊り回る場面は、さながらミュージカル映画、またはロックオペラのノリだ。ちなみに、パーティシーンで流れるのはジャズの名曲「踊るリッツの夜(Puttin’ on the Ritz)」。フランクは踊りながら曲のタイトルを叫んでいるが、それは、メル・ブルックス監督の『ヤング・フランケンシュタイン』(74)の劇中でジーン・ワイルダー(フランケンシュタイン博士)とピーター・ボイル(モンスター)も同じように曲のタイトルを叫んだのとリンクしている。音楽にも密かなオマージュが隠れているのだ。
オスカー俳優ジェシー・バックリー&クリスチャン・ベールをはじめとした豪華キャストのアンサンブル
アカデミー賞でも話題のキャスティングの魅力にも触れておこう。まず、なんと言ってもシェリーとブライドの二役に扮して物語を果敢に牽引するジェシー・バックリーだ。シェリーが憑依した時の激しい取り憑かれ演技、また、パーティに出席している男どもを虐待者と激しく非難し、警官を殺害し、フランクを伴い盗んだ車を転がして街を脱出する、その間の疾走感は半端ない。アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ハムネット』(25)と同じく、観念ではなく、感覚で役柄を捉えて演技で具現化できるバックリーならではの役作りがここにはある。
それをいなして受けるクリスチャン・ベールを筆頭に、燕尾服姿が板についているジェイク・ギレンホール(言わずと知れたマギーの実弟)、フランクとブライドを追跡する刑事ワイルズ役のピーター・サースガード、ワイルズの助手マロイに扮したペネロペ・クルス(ベレー帽とチェックのスーツがブライドの装いとは対照的)、そして、フランケンシュタイン博士を女性に置き換えたようなユーフォロニウス役のアネット・ベニングと、配役も豪華絢爛。映画ファンは「こんな人がここに!?」と驚きつつ、配役の狙いを感じ取って楽しみを倍増させるに違いない。
1930年代のシカゴを蘇らせたプロダクション・デザインと象徴的なコスチューム
豪華絢爛と言えば、1930年代のシカゴを画面に再現したプロダクション・デザインとコスチュームだ。スチームパンク風(ヴィクトリア朝時代に極まった蒸気機関に準えたレトロフューチャーな世界観)のセットを監督の依頼どおりに設営したのは、バズ・ラーマンの『エルヴィス』(22)で1950年代のロックシーンを蘇らせたプロダクション・デザイナーのカレン・マーフィだ。彼女のセンスなくて、ギレンホールはこれほどまで大胆に狂気じみた世界を映像化できなかったと思うし、それは、コスチューム・デザインを担当したオスカーコレクター(これまで3回受賞)、サンディ・パウエルにも言えること。
特に、今回パウエルがブライドのために用意したオレンジ色のガウンは、逆立ったヘアと黒い墨がリップからほっぺたまで飛び出した奇抜なヘアメイクと共に、映画のイメージショットとして見終わっても脳裏から離れない。特に、劇中でライトアップされた時のオレンジは印象深く、改めて衣装がどれほど映画の価値を決めるか再認識させられる。
このほか、IMAXカメラで撮影された本作では一部のIMAXシアターでアスペクト比1.43:1にフレームが拡大するという唯一無二の劇場体験ができるお楽しみも!ブライドとフランクの“愛と破壊の逃避行”の行く末を大きなスクリーンで目撃してほしい。
文/清藤秀人
