パク・チャヌク新作『しあわせな選択』で来日したイ・ビョンホンを直撃!「“演技の怪物”のような俳優たちとの共演にワクワクした」
リストラによって人生を狂わされた平凡な男が凶行に走る過程を、計算し尽くされた映像と独特のユーモアを交えて見せるブラックコメディ『しあわせな選択』(公開中)。5月に行われるカンヌ国際映画祭の審査委員長を務めることも話題の名匠パク・チャヌク監督が手掛けたこの作品で主演を務めるのは、ハリウッド作品や大ヒットドラマ「イカゲーム」への出演で世界的に知られる存在となったイ・ビョンホン。さらには「愛の不時着」のソン・イェジン、名バイプレイヤーとして知られるイ・ソンミンやヨム・ヘランなど韓国のオールスターキャストが一堂に介している。トロントやヴェネチアといった国際映画祭で高い評価を得た本作の日本公開を1週間前に控えた2月末、パク・チャヌク監督と共に来日したイ・ビョンホンに約20年ぶりに組んだ監督との撮影や共演者たちへの想いを訊いた。
「マンスなりの楽しみが“マッチョ”の象徴とも言える口髭だったのではないでしょうか」
『しあわせな選択』は、イ・ビョンホン演じる主人公マンスが「すべてを手にした」と確信した至福の状態からはじまり、失業、うまくいかない就職活動、そして、ライバルたちの排除計画へと進んでいく姿を追う映画だ。マンスにはアルコール依存症だった過去があり、現在も苦労しながら酒を遠ざけている。さらに、ソン・イェジン演じる妻ミリの連れ子である長男シウォンも親にも言えない秘密を抱えているなど、一見、幸せに見える家庭のなかに、様々な不安が隠されている設定だ。
「アルコール依存症の問題があり、息子も養子という点は特別とも言えますが、私は彼を最も普通の人と捉えました。そんな彼が非常に極端な状況に追い込まれ、極端な行動を行うことになる。スクリーンの前にいる観客を説得しなければならない俳優は、まず、自分が演じるキャラクターを理解しなければなりません。そういった意味で、今回はかなり時間がかかり、撮影の後半に入るまで監督と話し続けました。そして、最終的に、この物語は世界中、どこの人でも共感せざるを得ない雇用の問題を語っていて、そのことを知るすべての人々を代表する人物がマンスだと考えました」
実在の出来事をモチーフにした『KCIA 南山の部長たち』(20)や大地震後のディストピア世界を描いた『コンクリート・ユートピア』(23)など、作品ごとに様々なキャラクターを演じてきたイ・ビョンホン。今回のマンスは、長年、製紙工場に勤めてきた会社員だが、冒頭のシーンでは口髭をたくわえ、ちょっと遊び人のような姿で登場する。
「衣装もメイクも、すべてパク・チャヌク監督のアイデアです。マンスの外見には2つの案があって、少し長めのストレートヘアと、パーマをかけたスタイルでカメラテストをしました。最終的にはスティーヴ・マックイーンをイメージした現在の髪型に髭をつけることになったんですが、最初は『なんだか南米の麻薬カルテルみたいだな』と思いました。マンスはとても普通の人物で、ちょっと軽いところもあるため、自分がなにかを成し遂げ、これで生活していけるとなった時に、自分なりの楽しみを見つけたいと思ったのではないでしょうか。そのうちの一つが“マッチョ”の象徴とも言える口髭だったのかな」
これまで映画やドラマのなかで、数多くのアクションをこなしてきたイ・ビョンホンだが、「やむを得ず」凶行を繰り返す今回のマンス役には他とは違った難しさもあったのではないだろうか。
「難しいこともありましたが、楽しかったです。マンスの少し不器用でぎこちない姿は滑稽ですが、一般の人が実際にそうした状況に置かれたら、彼以上に無様に見えるかもしれません。だから『観客は笑うかもしれないが、実際にそれをやっている本人はとても真剣で切実な心の状態だろう』と考え、笑いと切実さを同時に感じられるようにと思いながら演じました」

