『花緑青が明ける日に』で長編デビュー。四宮義俊監督に問う、AI時代に“あえて手描きでやる意味”
美術家、日本画家の四宮義俊が、劇場アニメ『花緑青が明ける日に』(3月6日公開)で長編アニメーションの監督デビューを果たした。立ち退きを迫られた老舗の花火工場を舞台に、3人の若者に渦巻く感情を唯一無二の映像美と共に描く本作。彼らの想いを乗せて打ち上がるクライマックスの花火が圧巻の美しさで観る者を包み込むなど、四宮監督がアナログな方法や手描きにこだわりながら、失われていくものの輝きをスクリーンに刻み込んでいる。AI技術が急速に進化し続けているいま、四宮監督が手仕事の持つ力について胸の内を明かした。
「アニメを好きになったのは、日本画を選択するよりずっと昔」
物語の舞台となるのは創業330年の花火工場、帯刀煙火店。再開発による立ち退きの期限が迫るなか、家業にこだわり、幻の花火<シュハリ>を完成させようと奮闘する敬太郎(声:萩原利久)、幼馴染のカオル(声:古川琴音)、敬太郎の兄で市役所に勤めるチッチ(声:入野自由)という、そこで育った3人の未来をめぐる2日間の物語を描く。第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門にも選出され、日本アニメーションとして長編監督デビュー作がコンペ部門に選ばれる初の快挙を成し遂げた。若手実力派俳優の萩原と古川が初声優を務めたことでも話題だ。
四宮監督は、日本画家として活躍しながら、新海誠監督の『言の葉の庭』(13)でポスターイラストや劇中美術、『君の名は。』(16)では回想シーンの演出、原画、撮影を担当。片渕須直監督『この世界の片隅に』(16)では劇中の水彩画を手掛け、さらにCMやミュージックビデオにも参加するなど、ジャンルを超えた創作活動を行ってきた。本作でいよいよ長編アニメとしてその手腕を発揮することになった四宮監督だが、「日本画はどこまで拡張可能なのか」というテーマを学生時代から抱き続けてきたという。
「中学校の先生が日本画をやっていた影響もあり、高校生の受験期に日本画を専攻することを選択しました。ただ自分にとって『アニメをいつ好きになったのかな?』と思うと、それよりもずっと昔。保育園や小学校のころになります。アニメが好きだという想いが大前提にあるなか、『映像化した日本画というのは、どのようなものなのだろう』『映像や立体作品は、日本画として昇華できるものなのか』『日本画というのは、どこまで拡張可能なのだろうか』というテーマを大学生のころには自然と抱くようになりました」と吐露。
自身の創作活動において、日本画とアニメは「手を使って描いていることには、なんの違いもなくて。動いているか、動いていないかくらいの差しかない」という持論を持ちつつも、日本画で培った経験を長編アニメとして昇華できるまでには長い道のりがあったと振り返る。
「アニメの仕事を始めたのは、2009年くらいのこと、僕が29歳の時です。やっていくうちにいろいろな反響をいただけたり、求められることに対して応えたいという想いが芽生えたり。そのなかで、日本画としての作家活動とアニメという表現が二律背反していると感じる期間も結構、長かった。『いつかそれを一つにしてみたい』という気持ちはずっとあり、個展をやる際にも日本画と一緒に映像作品を展示するなど、いろいろな試みをしていました。歩んでいく道として、なんとか自分の持つコンセプトを同一なものとして持っていけないか。その想いを昇華させた大きな一歩となるのが本作で、僕にとってやりがいのあるチャレンジになりました」。「いつか」という情熱が結実し、構想から10年の時を経てついに本作が完成した。
「自然描写は丁寧にやりたい」
「日本画のタッチを生かして描く」と決め込んで作られた映画ではなく、「何十年もやり続けているので、僕の筆致や描き味など、日本画っぽいものが自然と出てくる。あえて『ここは日本画です』と言わなくても、自分の血肉となっているものが表出するはずだと思った」と四宮監督。自身の強みについて、どのように感じているだろうか。
「小さな子どもに『人の絵を描いて』というと、頭足人といわれるような平面的な絵を描きますよね。いきなり、光や影を表現したりはしないわけです。つまりそれこそが、人類が持っている本質的なものの捉え方だと思うんです。アニメも基本的にはそういった考え方で、認識しやすく、訴求力がある表現を突き詰めていくことで、アニメの表現が出来上がっている」と説明した四宮監督は、「日本画も同じように、絵画的な強みを表現していくものです。例えば円山応挙の『郭子儀図』や屏風絵、大和絵を考えてみても、人の姿形は筆だけで線を引いて表現し、植物はごわっとした質感で描いているものがイメージできると思います。そのように光や影ではなく、形態そのものが持っている豊かさや量感、質感で、物の本質を捉えようとする見方は、僕の強みではないかと思っています」と日本画家として世界を観察してきた視点が、確実に本作に注がれている。
また「花鳥風月」と言われるように、日本の自然界の美しさを捉えることも日本画の特徴だが、本作でも森や草木、水など、豊かな自然描写を目にすることができる。
「自然描写は丁寧にやりたいと思っていた」と切りだした四宮監督は、「草木が風に揺れるという表現は手間がかかるものではありますが、いまの商業アニメだとCGに置き換わってしまうようなものも、手描きでやることにこだわりました。背景は、水彩画を取り込んだものを使ったりもしています。デジタルで描くことによって、誰がやっても一緒だと感じるようなものにはしたくなかった」と力強く語る。

