『花緑青が明ける日に』をクロスレビュー!森直人、SYO、数土直志、大島依提亜が“新世代の青春アニメ”の魅力を深掘り

『花緑青が明ける日に』をクロスレビュー!森直人、SYO、数土直志、大島依提亜が“新世代の青春アニメ”の魅力を深掘り

新海誠監督や片渕須直監督の作品に参加したほか、ミュージックビデオやCMなど多彩な創作活動を行なってきた日本画家の四宮義俊が長編監督デビューを飾ったオリジナルアニメーション『花緑青が明ける日に』が3月6日(金)より公開される。先ごろ行われた第76回ベルリン国際映画祭では、日本のアニメ映画として初めて長編デビュー作でのコンペティション部門選出を果たすなど、すでに世界中から大きな注目を集めている一本だ。

このたびMOVIE WALKER PRESSでは、本作の公開に先駆けて、映画評論家の森直人、映画ライターのSYO、ジャーナリストの数土直志、グラフィックデザイナーの大島依提亜の4名によるクロスレビュー企画を敢行!「映画」「アニメ」「青春」「美術」といった様々な視点から、本作の魅力を深掘りしていきたい。

“映画”という枠をそっと超え、新しい感性の風が吹き始めた/森直人

淡い色調を幾層にも重ねた水彩画のようなトーン。冒頭から目を引く鮮やかな作画は実景以上に有機的な手触りを帯び、自然光の柔らかさや空気のゆらめき、森羅万象の生命力を繊細に伝える。画面の隅々まで美しく構成された『花緑青が明ける日に』は、映画言語を静かに更新する独自のタッチに満ちた作品だ。

日本画家の四宮義俊のメガホンのもと、日仏共同で製作された『花緑青が明ける日に』
日本画家の四宮義俊のメガホンのもと、日仏共同で製作された『花緑青が明ける日に』[c]2025 A NEW DAWN Film Partners

監督は四宮義俊。日本画家として活動しつつ、ジャンルを超えて多様な映像表現を探求してきた彼が、オリジナル脚本も手掛けた初の長編アニメーションである。製作は日仏共同。『めくらやなぎと眠る女』(22)、『リンダはチキンがたべたい!』(23)、シンエイ動画と組んだ『化け猫あんずちゃん』(24)など、作家性と娯楽性を新たな回路で結びつける秀作を送り出してきたフランスのMiyu Productionsが参加し、本作は同スタジオの最新の成果ともなった。

物語は幼なじみとして育った三人の若者を中心に、4年の空白を挟んで紡がれていく。舞台は神奈川県の架空の海辺の町・二浦。創業330年を誇る老舗の花火工場・帯刀煙火店は、都市再開発によって立ち退きを迫られている。花火職人だった父の失踪後も、敬太郎(声:萩原利久)は実家でもあるこの工場に居座り続けていた。そこへ高校卒業まで地元で暮らしていたカオル(声:古川琴音)が久々に帰郷する。東京の美大に通う彼女は、市役所職員となった敬太郎の兄・チッチ(声:入野自由)に依頼され、町おこしのプロジェクトマッピングを手掛けることになった。

4年ぶりに再会した3人の幼なじみは、ある驚きの計画を立てる
4年ぶりに再会した3人の幼なじみは、ある驚きの計画を立てる[c]2025 A NEW DAWN Film Partners

花火工場の立ち退き期限は明日。行政の都合や利権構造が絡むジェントリフィケーション(再開発にともない地価等が高騰し、もともとそこに住んでいた低所得層が立ち退きを迫られる現象)の影が差す中、カオルとチッチは“安全で穏当な”デジタル映像の花火を打ち上げようとしている。一方、敬太郎が目指すのは本物の花火――かつて父が追い求めた、「一発で世界が変わっちゃう」と劇中で語られる伝説の花火だ。

その花火は「シュハリ」と呼ばれる。名の由来は「守破離」だろうか。先人の型を守り、やがて破り、最後には離れて独自の流儀を確立する。茶人・千利休の言葉を基にした、芸道や武道における修行の三段階を示す概念であり、これを体現した者だけが真の創造者となる。


同じ火薬を用いながら、爆弾ではなく花火で空を彩る――そんな平和への祈りを込めた作品としては、大林宣彦監督の『この空の花 長岡花火物語』(12)や小島央大監督の『火の華』(25)が思い起こされる。だが本作の花火は、より広くアート表現そのもののメタファーとして立ち上がるようだ。そこには“毒”も含まれている。敬太郎の花火に欠かせない「花緑青」は、燃やすと青く発色する緑色の顔料で、美しさと引き換えに毒性を持つため、現在ではほとんど使われない。ちなみに日本画で用いられる岩絵具の「緑青」は、孔雀石(マラカイト)を原料とする古い緑色顔料で、日本画を象徴する色彩のひとつだ。こうして3人は、純度の高い自分たちのアートを守るための闘いへと踏み出す。日没の空に宇宙を描き、自らの未来と希望をつかむために――。

タイトルにもなっている「花緑青」は、美しさと引き換えに毒性を持つ顔料
タイトルにもなっている「花緑青」は、美しさと引き換えに毒性を持つ顔料[c]2025 A NEW DAWN Film Partners

果たしてどんな花火が夜空に咲くのか。クライマックスの映像と音響は圧巻の一語だ。四宮が本作の構想を温め始めたのは2016年だという。彼が2020年に監督した眉村ちあき「冒険者~森の勇者~」MVが、3人組の少年少女を描いた本作の姉妹編のような趣を持っていたのも頷ける。今作ではさらにストップモーションなど異素材の映像表現が加わり、蓮沼執太によるサウンドスケープが物語の呼吸をゆるやかに広げていく。“映画”という枠をそっと超え、新しい感性の風が吹き始めたかのような一本が生まれた。

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