『花緑青が明ける日に』が第76回ベルリン国際映画祭で上映!萩原利久、入野自由、四宮義俊監督が感無量「夢を見ていたかのような感覚」
萩原利久&古川琴音W主演、日本画家の四宮義俊による長編アニメーション監督デビュー作『花緑青が明ける日に』(3月6日公開)が、第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出。現地時間2月18日に行われたワールドプレミア上映や、同日のフォトコール、記者会見、レッドカーペットに萩原、入野自由、四宮監督が出席し、舞台挨拶やQ&A、囲み取材に参加した。四宮監督は「この空気は、日本では味わえないもの」と語り、3人とも感無量の様子だった。
映画タイトルにある“花緑青(はなろくしょう)”とは燃やすと青くなる緑色の顔料のことで、かつて花火の材料に使われていたが、美しさと引き換えに毒性を含むことから幻となった。物語の舞台は創業330年の花火工場、帯刀煙火店。再開発による立ち退きの期限が迫るなかで、幻の花火「シュハリ」と、そこで育った若者たちの未来をめぐる2日間の物語を描き出す。
18日にGrand Hyatt Berlinで行われたフォトコールおよび記者会見には萩原、入野、四宮監督が出席した。世界各国の報道陣を前に四宮監督は「いまのように新しい技術が発展する時、人間の手仕事、人間のテクニカルな技術が輝く瞬間が必ずあると思っている。本作はそういったこともテーマの1つに据えている」と語りかけた。
また、本作の重要な要素である“失われた居場所”について「これまではコミュニティはわずらわしいものだと思っていたが、子育てをする際にコミュニティを守る側として参加し、子どもの顔を見るうちにいつのまにか意識が変わっていった。自身が育った場所やいま住んでいる場所でも感じるが、巨大なグローバリズムやエネルギー産業の流れのなかで、土地に根差した人の気持ちはどうなっていくんだろう、という心配がある。風景を通して物語を提示することで表現したかった」と自身の実体験による意識の変化を交えて明かした。
声優初挑戦となる萩原は「アフレコを通して、普段の俳優業ではいかに表情や身体を使って表現していたかを感じました」とし、主人公、敬太郎の演技について「思春期という考え方も含めていろいろな面で人間として成長していく段階にいる役なので、声色や色など細かなニュアンスについて四宮監督とたくさん相談し、試行錯誤しながら作り上げていきました。もしかすると収録している時間よりも監督と話している時間のほうが長かったんじゃないか」と振り返った。
夜には映画祭メイン会場であるBerlinale Palast前で行われるレッドカーペットに萩原、入野、四宮監督が登場。初の長編監督作がベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出され、ワールドプレミア(=世界初上映)をベルリンの地で迎えたことについて四宮監督は、「(本作は)ドメスティックな小さな物語で、現場も小さかった。それが日本の裏側まで届いた。観客にどのように受け取られるか楽しみです。世界中で共感できるアニメーションを作ることができた自信はあるので、ぜひ見ていただきたい」と熱い意気込みを語った。
また、第52回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した『千と千尋の神隠し』(01)でハク役の声を務めた入野は、「当時はまだ13歳で、賞を獲ったんだなというライトな気持ちでしたが、いまこの場所に来て、この空気を感じて改めて金熊賞のすごさを実感しています。ベルリンは自分にとって特別な場所なので、このような形でこのレッドカーペットを歩けることがとてもうれしいです」とコメント。
現地時間21時30分過ぎからBerlinale Palastで行われたワールドプレミア上映では、会場が満席に。大きな拍手に包まれ、スポットライトに照らされた萩原、入野、四宮監督が場内に入り、上映はスタート。笑いが起こったり、エンドロールが流れるやいなや感想を話し始める小声で場内が満たされるなど、観客の反応をリアルに感じられる上映会となった。
上映後は大きな拍手が湧き上がり、熱気冷めやらぬなか、3名に加え竹内文恵プロデューサーが登壇。四宮監督は本作のモチーフとなる花火について、「日本では、多くの場合、8月に花火が上がるのですが、故人を偲ぶ意味や第二次世界大戦の慰霊のような意味もあり、フェスティバルと鎮魂という2つの側面があります」とし、「大小様々なコミュニティでの争いなど、いろいろな出来事が世の中にはありますが、本作の花火を通して世界の悲劇などについて考える一端になれば幸いです」と来場した観客へ語りかけ、さらに大きな拍手を浴びた。
ワールドプレミアに参加した観客の反応のなかには「画面に描かれる細部に至るまで緻密に描き込まれた、実にすばらしい作品だ。背景はまるで美術館に展示されてもおかしくないほどの静止画のようだ」との声があり、日本画家出身である四宮監督の色と光の表現を早くも世界が評価していることが伺える。
ワールドプレミア上映直後には囲み取材も開催。映画を観た観客の反応や上映会を終えての感想について「すごい量の拍手やエンディングで観客の皆さんが感想を言い始める空気は、日本では味わえないものでした。アニメ映画を作り始める時に思い描いていた『エンドロールで監督としてクレジットが出る』ということが実現し、自分1人で余韻に浸っていたい気持ちもあります」と胸いっぱいの様子。
萩原は「この先なにをしていても今日という日を思い返すだろうなというくらい、この目や身体で感じたものはものすごい景色で経験だったなと思います。とても刺激的な体験でした」と振り返った。入野は「夢を見ていたかのような感覚で、上映後は言葉にできない感動がありました」と想いを語り、ラストシーンに向けて観客の気持ちが乗ってくるのを肌で感じたという。
さらに、これから世界で上映が始まる本作について四宮監督は「小さなコミュニティとそれを取り巻く大きなグローバリズム、環境問題、エネルギー問題などにさらされた時に、伝統的な側面を持つお祭りがどのように形を保っていけるのか、取捨選択をどうするか…。それは日本だけではなく世界で共通している課題でもあるので、若い世代がどう捉えてくれるのか。出来事の中身をじっくり観察していかないと物事の本質が見えてこないという想いがあり、それを映画というエンタメを通してその一端を感じていただければうれしいです」と作品に込めた想いを語った。
失われゆく居場所、土地、文化、伝統。変わりゆく時代の中で揺れる若者たちの決断を描いた本作が、海の向こうでも受け入れられることが証明された。長編デビュー作でベルリン国際映画祭コンペ入りを果たした、宮崎駿監督、新海誠監督に次ぐ才能をぜひスクリーンで体感してほしい。
文/山崎伸子

