『ブゴニア』と、リメイク元である韓国カルト映画の違いは?陰謀論が笑えなくなった社会の変化

『ブゴニア』と、リメイク元である韓国カルト映画の違いは?陰謀論が笑えなくなった社会の変化

ヨルゴス・ランティモスとエマ・ストーン。『女王陛下のお気に入り』(18)、『哀れなるものたち』(23)など、毒々しいまでのアイロニーと諧謔(かいぎゃく)に満ちた、一筋縄ではいかない作品を世に送りだしては絶大なる評価を得ている、監督×主演コンビである。そんな2人の最新作が『ブゴニア』(公開中)だ。昨秋アメリカで公開されると好評を博し、現地時間3月15日(日)に授賞式が行われる第98回アカデミー賞では、作品賞、主演女優賞など4部門にノミネートされている。

ミシェルを誘拐したテディとその従妹ドンは彼女が“地球を滅ぼすアンドロメダ星人”だと信じていた
ミシェルを誘拐したテディとその従妹ドンは彼女が“地球を滅ぼすアンドロメダ星人”だと信じていた[c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

韓国映画『地球を守れ!』をリメイクした『ブゴニア』

実はこの作品、チャン・ジュヌァン監督、シン・ハギュン主演による2003年の韓国映画『地球を守れ!』のリメイク。オリジナルは、地球をエイリアンの魔の手から救うことを決意した青年が、医薬品メーカーの社長にして警察長官の娘婿である中年男性を、“アンドロメダ星人”と目して誘拐。恋人の女性の力を借りて監禁し、拷問を加えながら、地球を守ろうとするストーリー。韓国映画らしい血と暴力、そしてブラックユーモアにあふれた作品だった。製作したのはCJ ENM。のちに『パラサイト 半地下の家族』(19)で、世界的な大成功を収めた会社である。

オリジナルの男性社長をエマ・ストーン演じる女性CEOに置き換えた
オリジナルの男性社長をエマ・ストーン演じる女性CEOに置き換えた[c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

そのCJが、アメリカでのリメイクを企画し、プロデューサーの1人にオリジナルのファンだったアリ・アスターを据えた。そのアスターから、オリジナルを観るよう勧められた脚本家のウィル・トレイシーが、「いまの英米というコンテキストにおもしろく置き換えることができる要素」を見つけだし、リメイク版のシナリオを完成。監督のオファーを受けたランティモスは、そのシナリオをあっと言う間に読み切り、「いまの時代に合っている」と感じた。彼にそう思わせたのは、“陰謀論”の扱い方に負うところが大きかったのは、想像に難くない。

陰謀論への警鐘が鳴らされて久しい現代社会

「アポロ11号の月面着陸はなかった」「9.11同時多発テロは政府の自作自演」「エリア51には宇宙人が捕らえられている」等々…。有名な出来事や世のなかの問題について、客観的な証拠など皆無なのに、「誰かの陰謀で起きている」と断じてしまうのがいわゆる陰謀論である。

『地球を守れ!』が作られた21世紀初めの韓国と、それから20年以上経った『ブゴニア』のアメリカでは、後者のほうが圧倒的に、陰謀論が横行し影響力が大きい社会になっている。新聞や雑誌などの紙媒体が衰退し、陰謀論はインターネットを通じて、より広く拡散されるようになった。

その象徴とも言うべきは、ドナルド・トランプ大統領その人だ。そもそも彼の政治キャリアは、オバマ元大統領が外国生まれだという陰謀論の主張から始まっている。彼が敵対勢力としたのはディープステート。アメリカ政府の一部が、金融・産業界の上層部とつながって権力を行使する“闇の政府”のことを指す。もちろんそんなものは、実在しない。

大統領の再選を一旦阻まれた際には、ライバルのバイデン陣営が不正な方法で「選挙を盗んだ」と、陰謀論を煽りに煽った。その結果として2021年1月6日、トランプ支持者たちによるクーデター未遂と言うべき、連邦議会議事堂襲撃事件が引き起こされた。

こうした、“トランプ禍”とでも言うべき状況。それに加えて、コロナ禍という災厄に全世界が襲われたことも、陰謀論にハマる人々を多く生みだすことにつながった。禍が生んだ分断と孤立に脅かされた人々は、世間から隠されている真実を、自分は知っていると思うことで、慰められ、さらには優越感を得られる。しかし、「自分たちしか知らない真実」というものは、そのほとんどがフェイクなのだ。

ミシェルは謎の2人組に誘拐されてしまう
ミシェルは謎の2人組に誘拐されてしまう[c]2025 FOCUS FEATURES LLC.


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