『禍禍女』ゆりやんレトリィバァ監督と南沙良が撮影を通して築いた絆「一緒にいいものを作りたいという想いで臨んだ、転機にもなった作品」
芸人、俳優、ラッパーなどマルチな活動で注目を集めている、ゆりやんレトリィバァが念願の初監督で放つ『禍禍女』(公開中)。世界三大ファンタスティック映画祭のひとつ、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭を皮切りに、世界中の映画ファンをすでに熱狂と興奮の渦に巻き込んでいる本作は、ゆりやんの恋愛体験をベースに、好きになった男に執拗につきまとう“禍禍女”の狂気と妄想を、圧倒的な映像表現とこだわりの世界観で描く超絶恋愛映画だ。
高い技術に加え、卓越したホラー表現も盛り込まれており、何物にも似ていない独創的な展開はとても新人監督のものとは思えない。“禍禍女”であるヒロイン・早苗に扮した南沙良の、ほかの作品では見たことのない、おぞましくも愛らしい表情と妙技の数々も目に焼きついて離れなくなる。そんなゆりやん監督と主演の南沙良が、濃密な時間が流れた驚愕の撮影現場を振り返った。
「自分の殻をここまで破ることになるとは思っていませんでした」(南)
――ゆりやんさんが最初に映画監督になりたいと思ったのはいつですか?
ゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん監督)「8歳のときから吉本興業の芸人になりたかったんです。でも、小学校の高学年か中学生ぐらいのときに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て、大好きだったから、映画の世界でアメリカに行くか、芸人になるか?で考えが揺れ動くようになりました。でも、そのときは映画の仕事にどんなものがあるのかも、そもそも監督がどんな仕事なのかも知らなくて。とにかく目立ちたかったんです(笑)」
――でも、その夢をかなえてしまったわけですから、スゴいです。南さんは、そんなゆりやんさんの初監督作の主演の話を最初に聞いたときはどう思いました?
南沙良(以下、南)「ゆりやんさんと一緒に映画を作るのが純粋に楽しみで、この際どいシーンをどうやって撮影するんだろう?ミュージカルシーンはどんな感じになるんだろう?って思っていました。ただ、最初の脚本も結構インパクトが強かったけれど、実際に演じたときの脚本よりもう少しマイルドだった気がするので、自分の殻をここまで破ることになるとは思っていませんでしたね(笑)」
――やりながら、どんどん過激になっていったんですか?
南「そうですね。ゆりやんさんと話しながら撮影していくうちに、私の演じた早苗がどんどんできあがっていきましたし、狂気性をもっと持たせたほうがおもしろいものになるのかなという実感もありました」
――本作はゆりやんさんの恋愛体験がベースのホラー映画ですが、人間の闇の部分が描かれていたり、ブラックユーモアのテイストもあります。『パンズ・ラビリンス』(06)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)で知られるギレルモ・デル・トロ監督の映画を想起させる大胆な映像表現もあって圧倒されましが、いちばんやりたかったことは何ですか?
ゆりやん監督「恋愛を語って、私のことをふってくれた人たちに復讐しようと思いました(きっぱり!)」
「子どもたちが一生忘れられない、トラウマになるような映画にしたい」(ゆりやん監督)
――映像的な試みで挑戦したいと思ったことは?
ゆりやん監督「私の実話の恋愛を描いて、なぜホラー映画になるのか?というところに関しては自分でも謎ですけど(笑)、子どものころから映画のジャンルでいちばん好きなのがホラー映画で。「学校の怪談」シリーズや『リング』、『呪怨』も怖いけど観たかったし、観てしまったらしばらくお風呂に入るのもトイレに行くのも怖かったんですけど、お姉ちゃんとコタツに入って指の隙間から震えながら観たあの体験はいま思えば本当に尊いものだったんですよね。なので、ホラー映画を撮らせてもらえるなら、子どもたちが一生忘れられない、トラウマになるような映画にしたいという思いがありました」
――ハードな描写が結構連続しますけど、南さんが撮影でいちばん大変だったのはどのシーンですか?
南「すべてが大変だったんですけど、ひとつだけ挙げるならやっぱりミュージカルシーンですね。気持ちをあの高いテンションまで持っていく作業が本当に難しくて。宏(前田旺志郎)の遺影を持って帰って来て、床に転がりながら地団駄を踏むところも同じようにかなり苦労しました(笑)」
ゆりやん監督「沙良さんは本当にすばらしい俳優さんで、1回目にバーンって出さはるエネルギーがスゴいんですよ。なので、『ここはこういう想いで』という擦り合わせだけしたら「もう1発で行きましょう」という話をしたし、いま「大変だった」って言われたシーンも基本1発OKだったから、あの臨場感が出たんです」
――望月瑠美役のアオイヤマダさんと罵り合う顔面対決みたいなシーンもすごいテンションで圧倒されました。
南「あそこはどんな感じでしたっけ?」
ゆりやん監督「忘れとるがな!(笑)」
南「ああ、『威嚇してほしい』ってゆりやんさんが仰ったので、『えっ、威嚇?』ってなったのを思い出しました(笑)」
ゆりやん監督「そうそう。あそこは『この人、まともやと思っていたけれど、あれ?』ってなるきっかけになるシーンだったので、違和感がどんどん膨らんでいくようにしたかったんですけど『そこまで変な人じゃないよね?』っていうニュアンスもまだ残しておきたくて。喧嘩慣れしていない感じも欲しかったので、決めた感じにならないように、練習なしでいきなりやってもらいました」
南「だから2回ビンタするけれど、慣れてないから叩き方がちょっと弱くて(笑)」
ゆりやん監督「顔を叩くときのあの遠慮している感じがリアルでいいんですよ」

