【ネタバレあり】笑いのための血しぶきに嘔吐…初心を忘れないサム・ライミ監督最新作『HELP/復讐島』をレビュー

【ネタバレあり】笑いのための血しぶきに嘔吐…初心を忘れないサム・ライミ監督最新作『HELP/復讐島』をレビュー

一番ヤバいのはリンダ!?ホラーキャラへの進化していく血みどろの狂気

とはいえ、そこに勧善懲悪の小気味よさがあるわけではない。なぜならリンダがどんどんおかしくなっていくからだ。
リンダはこのサバイバル生活のほうがダンゼン楽しく、生還するための努力は一切しない。文明社会に還りたいブラッドリーは相変わらずの邪悪っぷりでリンダを陥れそのチャンスを狙ったりする。そんな彼を無視すれば死ぬだろうにそうしないのは、彼女の優しさなどではない。ブラッドリーはリンダにとってかつて飼っていた小鳥と同じ。話を聞いてくれるだけの存在。話し相手がいないとサバイバルは難しいことを彼女は知っているからだ。

イノシシ狩りもウキウキでこなしてしまう超人ぶりを発揮するリンダ
イノシシ狩りもウキウキでこなしてしまう超人ぶりを発揮するリンダ[c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

さらにリンダは、島の近くを漁船が通ってもヘルプを叫ぶどころか、「いや、まだダメ」といって身を隠してしまう。このあたりから徐々にリンダが恐ろしくなってくる。
こういった2人の関係性やリンダの加速して行くヤバさは、スティーヴン・キングの同名原作の映画化『ミザリー』(90)を思い出させる。思い込みの激しい熱烈ファンにとらえられてしまった、怪我で身動きできない人気作家という構図。徐々に想いが加速したファンがありえない行動を取るという展開。リンダがその狂気を秘めたファン(キャシー・ベイツが演じていた)と重なってしまい、気が付けばホラーキャラクターと言っていいほどの恐ろしさ!まさにヤバいおねえさんだ。

リンダのこの表情にだんだんと恐怖を感じてくる
リンダのこの表情にだんだんと恐怖を感じてくる[c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

が、だからといってシリアスなノリばかりではない。狩りに出かけたリンダが手製のヤリを黒いイノシシにこれでもかと突き刺すと、血みどろ状態のスプラッタな流血っぷり。やりすぎることで笑いを誘うライミらしい演出で緊張感のなかに笑いがこみ上げてくる。このイノシシがいかにものデジタルなところもライミらしい。彼はリアルを求める監督ではなく、自分が感じるおもしろさこそを重要視する。かつて『ダークマン』(90)でも主人公が火だるまになって落下するシーンを、まるでアニメのような火だるま状態にしていて驚かされた。映像技術はイマイチでもやっちゃうのがライミ流。自分がやりたい演出のためなら技術に目をつぶる大胆さをもっているということ。それがユニークな表現を生み、いまでもそういう感覚をもっていることがファンとしてはうれしくなる。

男女の関係をほぼ描かないのが『HELP/復讐島』の大きな特徴
男女の関係をほぼ描かないのが『HELP/復讐島』の大きな特徴[c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

もうひとつ、ライミらしいと思ったのはセックス・ネタがほとんどないところだろう。『流されて…』も『逆転のトライアングル』も、そういう男女の欲望が、新しいヒエラルキーに大きな意味をもつのだが、本作に関してはほとんどない。そういう展開になるのかと思わせるエピソードもあるにはあるが、それ以上は追求していない。また、ブラッドリーに対するリンダのセックス系の行動はホラーな展開、サスペンスな展開、さらに笑いのため、血しぶきのために使われている。そもそもリンダにとって彼の存在は小鳥だから、そんな気にもならないということなのかもしれないが。

では、ホラーキャラになってしまったリンダはどうなるのか?そのラストでライミが用意してくれたのは意外な結末。これがピカレスク的なおもしろさがあって痛快だ。

『HELP/復讐島』は公開中!
『HELP/復讐島』は公開中![c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「スパイダーマン」シリーズの大成功によってハリウッドのトップディレクターになったライミは、その三部作が終わったあと、初心に戻るべく『スぺル』(09)を撮ってくれた。とてもミニマルでカルトなホラーだったが、本作もそういう色が強くにじんでいる。監督と2人の役者、そしてわずかなスタッフだけ。まさにライミの出発点。考えてみたらマーベルの超大作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』であっても、後半は『死霊のはらわたII』(87)していたのを思い出す。いい監督は決して初心を忘れないということだ。


文/渡辺麻紀

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