押井守がこだわる、戦争映画での“軍オタ”チェックポイント「リアルに再現できたからこそ、実在の兵士たちの写真を出せる」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」特別編(後編)】

押井守がこだわる、戦争映画での“軍オタ”チェックポイント「リアルに再現できたからこそ、実在の兵士たちの写真を出せる」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」特別編(後編)】

「いまの戦争は、兵士の能力でカバーできる余地が実はあまりない」

――そういう実際の兵士たちの写真を出す意義をしっかり感じる映画になってましたね。

「可能な限り戦場のリアリズムを追った映画としては、これがいまのところはダントツですよ。何度もいうけど、ほとんどの戦場を描いた映画はアクション映画になっちゃっているから。

あ、近年だと『ジャーヘッド』(05)が異色と呼べる戦争映画だったよね。ものすごくハードな訓練を重ねてやっと中東に赴いたにもかかわらず、最後まで発砲許可が下りなかった海兵隊たちの話ですよ。ストレスの塊になった兵士たちは最後、夜空に向かって撃ちまくるしかなかった。そういうストレスと闘うのもいまの戦争であるということが伝わって来たじゃないの」

兵士たちによる活躍はほとんど描かれない
兵士たちによる活躍はほとんど描かれない[c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

――押井さん、偶然かもしれませんが、その『ジャーヘッド』の監督サム・メンデスもアレックス・ガーランドもイギリス人ですよ。イギリス人が撮るほうが視点がおもしろいのかもしれませんね。

「そういうのはあるかもしれないよね。『ジャーヘッド』も本作も、現在の戦争の在り方を描いているという点では同じ。『プライベート・ライアン』(98)の第二次大戦時とはまるっきり違うでしょ」


――具体的にどういうところが?

「いまの戦争というのは兵士の能力でカバーできる余地というのが実はあまりないんですよ。銃器も違うし戦術も異なるわけだから違って当然と言えば当然なんだけど、いまの戦争では連携をとって動くというのが徹底している。だから本作でも、外に飛び出すまえに役割を決めていたでしょ。あれは実際にやっているんだよ。そういう連携を重要視しているからひとりだけヒーローになるということも少ないんです。そういう、いまどきの戦い方もちゃんとわかるから、軍オタ的にはもちろん、そういうことに興味がある人にとってはめちゃくちゃためになる映画。特殊部隊と言えども普通の人間。身体の向きや連携を憶えるのは訓練できてもメンタルはできない。そういうところもちゃんと伝わっているから。

だから私、これは絶対に自衛隊が観るべきだと思ったからね。いまの自衛隊の訓練って野戦がメインで、市街戦は想定外になってる。だから、もっと市街戦の訓練をするべきだという意見は以前から結構あがっていた。もし日本で戦うケースになった場合、市街戦になる確率はとても高いから」

負傷した兵士を懸命に救おうとする
負傷した兵士を懸命に救おうとする[c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

――押井さんの話をお伺いしていると、いろんな側面で楽しめる作品なんですね。

「軍オタ的には圧倒的にブラッドレーです(撮影に使われたのはFV432/30だけど実車輌。これはこれで大変珍しい車輛なので必見です)。映画監督的に言えば、サー(リドリー・スコット)の『ブラックホーク・ダウン』(01)のような派手さがある映画も好きだけど、今回のめちゃくちゃリアルでシブいのも大好き。可能な限り戦場のリアリズムを追った映画としては近年の断トツ1位ですよ」

『ウォーフェア 戦地最前線』は公開中!
『ウォーフェア 戦地最前線』は公開中![c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

取材・文/渡辺麻紀

押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」