押井守がこだわる、戦争映画での“軍オタ”チェックポイント「リアルに再現できたからこそ、実在の兵士たちの写真を出せる」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」特別編(後編)】
独自の世界観と作家性で世界中のファンを魅了し続ける映画監督・押井守が、Aだと思っていたら実はBやMやZだったという“映画の裏切り”を紐解いていく連載「裏切り映画の愉しみ方」。今回は特別編として、現在公開中のアレックス・ガーランド監督『ウォーフェア 戦地最前線』をお届けします。
前編では「戦争映画と呼べる正しい戦争映画」と本作を絶賛していた押井監督。後編となる本稿では“軍オタ”目線全開となった押井監督が、本作を観て大興奮だったというミリタリー描写や、戦争映画を観る際のチェックポイントなどを熱弁していく。
舞台は2006年、アメリカ軍特殊部隊8名の小隊は、イラクの危険地帯ラマディで、陸軍の迷彩服に身を包み身分を隠しながら、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていた。ところが、想定よりも早く事態を察知した敵兵が先制攻撃を仕掛け、市街で突如全面衝突が始まる。退路もなく敵兵に完全包囲されるなか、重傷者が続出。部隊の指揮をとることを諦める者、本部との通信を断つ者、悲鳴を上げる者。負傷した仲間をひきずり放心状態の隊員たちに、さらなる銃弾が降り注ぐ。小隊は逃げ場のないウォーフェア(=戦闘)からの脱出を目指すのだった。
「飛行機が低空飛行して衝撃波を浴びせる、これも初めて見た戦術」
――後編では本作のもうひとつのチェックポイント、軍オタ視点で語っていただきます。軍オタとしても知られている押井さんの大喜び要素があったんですよね?
「そうです。驚きましたよ、なぜってホンモノのブラッドレーが出てきたから。字幕では『戦車』とか『搬送車』と訳されていたけど、正確には歩兵戦闘車。映画でホンモノを見たのは初めてなので大コーフン(笑)。そうか、昇降ハッチの厚みって、あれくらいなのかって。内部も資料から受けた印象よりも狭かった。そういうディテールは資料だけじゃだめで、やっぱり実物を見ないとわからない。そういう意味で最高ですよ。25mm機関砲の射撃も見事だった。この監督、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)でもホンモノの25mmを使っていたけど結構、射撃対象に当たっていたんだよね。でも、今回はものの見事に当たりません。しかも、当たって火花が飛び散るなんていうリアクションじゃなくて、パンパン壁が弾けるだけ。こういうのもホンモノです。IED(簡易手製爆弾)に当たったショックで、ブラッドレーのなかにいた兵士が負傷するでしょ。装甲車両といえども全然安全じゃないことも描いていたということ。いや、本当にすごい」
押井監督注:これは完全にマチガイです。
YouTubeで専門家が指摘してましたが、ブラッドレー風に改装した装甲車両で、正確には英軍の装甲兵員輸送車FV432/30を映画用に改装したものでした。転輪の数とかよく見れば分かったはずなのに、ブラッドレーの雰囲気が出てるので気づきませんでした。まことにお恥ずかしい限りです。ちなみに主砲も.30mmRADENです。
謹んで訂正させていただきますm(_ _)m。
――色も正しいんですよね? 黄色で目立つんじゃないかと思ったんですけど。
「あれは中東仕様。黄色というかサンドイエローで、中東の土地の色に合わせている。いまの米軍の中東地帯の地上部隊はほぼあの色です。
もうひとつ、驚いたのは飛行機の威嚇飛行。低空飛行して衝撃波を浴びせると、少し時間をおいて『ドーン』という音が響き渡る。衝撃波は遅れて届くからそういう表現になる。市街戦だと有効な威嚇手段になるけれど、かなり危険だよね。パイロットのリスクも大きいんじゃないの。これも初めて見た戦術。低空飛行自体は動画で見ることが出来るんだけど、ああいう使い方をするのは初めて見た。とても勉強になりますよ」
――あの威嚇飛行はかっこよかったですね。
「かっこいいけどリアルなんですよ。軍オタがこういう戦争を扱った映画を観る時のチェックポイントは、それが本当なのか演出なのか?なんだけどその判別は難しい。でも、この映画に関しては徹底しているから本当なんだと思うよ」
――本作の監督&脚本はアレックス・ガーランドと、レイ・メンドーサというシールズ(SEALs)で実際に活躍していた本当の軍人との共同監督作なんです。軍オタ的に見ても様々な描写がリアルなのは、彼のおかげなのかもしれませんね。
「そうなんだろうね。おそらくリアルに再現できたからこそ、ラストに実在の兵士たちの写真を出すことができたともいえる。実在の兵士たちをエンディングで出すというのはほかの映画でもよく見る手法だけど、私の考えではそれは、アメリカという国の映画に課せられた使命のひとつだということ。つまり『国を裏切っちゃいかん。戦争に従軍した人たちに敬意を払え』ということです。それはアメリカがやるべきことなんだから、ハリウッドもそれに従えといっているんです。本編にそれを反映している比重がここまで高い映画はあまり見たことがないよ」

