【ネタバレあり】ハサウェイが向き合う“過去”と“亡霊”…『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』をレビュー!

【ネタバレあり】ハサウェイが向き合う“過去”と“亡霊”…『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』をレビュー!

群像劇をメインに据え、舞台として紛争を描く「閃光のハサウェイ」

マフティーの主力であるMS、メッサー。ゲリラ戦を得意とする
マフティーの主力であるMS、メッサー。ゲリラ戦を得意とする[c]創通・サンライズ

シリーズの原点である「機動戦士ガンダム」はロボットを兵器として扱い、人類同士の戦争に使われるという状況を描いたことがエポックメイキングとなる1つの要素だった。人類の戦争も、地球とスペース・コロニーという住む場所と立場が異なる者同士のイデオロギーの違いが一年戦争という大きな戦いに発展。その戦争が終わると、地球連邦政府は特権階級が力を増して腐敗していき、その結果スペース・コロニーに住む宇宙生活者=スペースノイドへの圧政や衝突が起こることで、両者が相容れぬ社会情勢となっている様子が描かれていく。宇宙世紀を舞台とした「ガンダム」シリーズは、そうした「内戦」や「戦争」が主軸としてクローズアップされた戦記的な描かれ方がなされ、その状況に翻弄される若者たちの物語であった。

しかし、「閃光のハサウェイ」は、そうした「ガンダム」シリーズの社会状況は舞台として引き継いでいるが、それまでの作品に比べれば「戦争」が主軸として扱われていないのが特徴的だ。宇宙世紀としての作品年代が、連邦政府に対して戦争を起こすほどの大きな勢力が存在しない時代であることも関係しているが、その結果テロを中心とした紛争が頻発する状況に変化。反連邦政府運動に参加するハサウェイだけでなく、連邦政府側で職業軍人として働くケネスまでもが腐った特権階級によって地球が独占されてしまう状況をよしとしておらず、可能なら世の中が変わってほしいと願っている状況。それゆえに、戦い自体はそれぞれが身を置いた組織の行動目的ではあるものの、物語としてはそれぞれの抱える個人の思いや関係性を描くことに重きが置かれている。

連邦軍のケネスもまた、マフティー殲滅のために準備を進める
連邦軍のケネスもまた、マフティー殲滅のために準備を進める[c]創通・サンライズ

ハサウェイにとっては過去のトラウマと向き合い浮沈するきっかけとして、ギギにとっては新しい人生を踏みだす可能性との出会いとして、ケネスにとっては軍人として部隊を率いる責任者ながら立場を超えた友情のような思いを抱かせる存在による自身の変化の場として、その背景となる形でマフティーを中心とした紛争が描かれる。

マフティーという組織も世の中を変えようという同じ志を持った者たちが集まっているが、軍隊的な厳しい規律や上下関係が存在しない組織として描かれ、それはまるで学生の政治運動の延長のように描写される。紛争は多数の犠牲を出し、血生臭く、悲惨なものだが、戦いがあることで引き寄せられた運命や敵同士、仲間同士の交流、そうした状況のなかでしか花開かない恋愛模様は、彼らの心に「青春」のような感情を持たせていく皮肉。「出会い」が主軸だった第1章を踏まえて、第2章は彼らの置かれた状況がよりはっきりしていくからこそ、悲惨な戦いのなかに儚い「青春」と「謳歌」のような雰囲気がより強く漂い始める。紛争を背景にした青春映画的な様相が、本作のある種見どころとなっているのだ。

連邦軍のMSで、Ξガンダムと姉妹機にあたるペーネロペー。レーン・エイム中尉がパイロットを務めていた
連邦軍のMSで、Ξガンダムと姉妹機にあたるペーネロペー。レーン・エイム中尉がパイロットを務めていた[c]創通・サンライズ

しかし、本作はそれだけでは終わらない。続く第3章に向けたさらなる予兆とも言えるモビルスーツ同士の戦いがクライマックスには用意されている。エアーズロック付近にマフティーが潜伏していることを感じたギギに導かれる形で、レーン(声:斉藤壮馬)の乗るアリュゼウスはハサウェイのΞ(クスィー)ガンダムと遭遇し戦闘に入る。アリュゼウスは量産型ν(ニュー)ガンダムをコアとし、ミノフスキー・フライトシステムを搭載したペーネロペーの練習機として使用された機体。戦闘で増加ユニットを失い、量産型νガンダムが姿を現した時、ハサウェイはそこにアムロ・レイの姿を重ねる。νガンダムはハサウェイが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88)で行動を共にしていたアムロの愛機。そして、アムロという人物は現在のハサウェイにとって、宿敵であったシャア・アズナブルの思想に近い形でマフティーに参加する自分を否定する存在でもある。アムロの亡霊との対峙とも思えるシチュエーションは、ハサウェイの抱える危うさと心の闇を浮き彫りにしていくようにも見える。

そして、過去の亡霊を打ち破り、ハサウェイはギギと再会を果たす。「青春」という言葉が似合うような鮮烈な再会シーンが物語の締めくくりとなっているが、紛争は終わっておらず、2人の行く先に光だけが見えていないように感じるビターさも、本作らしさだと言えるだろう。


「戦記」としてのガンダム作品から離脱し、紛争を背景とした青春映画的な方向へと進む本作。淡々と進む状況、リアルな兵器として描かれるモビルスーツの存在感と戦場の空気、それをしっかりと伝える音響。「ロボットもの」というジャンルのリアリティを追求し、表現のレベルを大きく進歩させた映像表現とあわせて、ビターな戦場青春ものとしての本作を劇場で深く味わってほしい。

文/石井誠

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