樋口真嗣監督「フィルムを通してタイムトラベルができた!」『大怪獣ガメラ』4Kデジタル修復版舞台挨拶で憧れの小椋俊一との修復監修を振り返り満面の笑み

樋口真嗣監督「フィルムを通してタイムトラベルができた!」『大怪獣ガメラ』4Kデジタル修復版舞台挨拶で憧れの小椋俊一との修復監修を振り返り満面の笑み

【昭和ガメラ映画祭】開幕記念『大怪獣ガメラ』4Kデジタル修復版舞台挨拶が、12月6日、角川シネマ有楽町にて開催され、平成ガメラ三部作の特技監督を務めた樋口真嗣監督、多くの4Kデジタル修復監修を手掛けた小椋俊一が登壇。修復監修を行なった2人が、60年前に制作された、昭和ガメラの新たな発見について初めて語った。

【写真を見る】上映会場を間違ってしまったと明かし笑いを誘った樋口真嗣監督。「ガメラ」シリーズの魅力をたっぷりと語った
【写真を見る】上映会場を間違ってしまったと明かし笑いを誘った樋口真嗣監督。「ガメラ」シリーズの魅力をたっぷりと語った

【ガメラ生誕60周年】を記念し、シリーズの記念すべき第1作目『大怪獣ガメラ』(65)、シリーズ2作目『大怪獣決闘ガメラ対バルゴン』(66)、3作目『大怪獣空中戦ガメラ対ギャオス』(67)の4Kデジタル修復版を制作。樋口監督と小椋、2人の監修によって生まれた“まだ誰も見たことがない”昭和ガメラは、全世界の特撮ファン必見だ。

多くの4Kデジタル修復監修を手掛けた小椋俊一
多くの4Kデジタル修復監修を手掛けた小椋俊一

「ドルビーでの上映だと思って、間違って丸の内ピカデリーに行っちゃった!」と会場を間違ったと照れ笑いの樋口監督は「こっちのほうが昭和っぽくて(『大怪獣ガメラ』の上映に)合っている」と場内を見渡しニッコリ。ガメラ60周年への思いを問われた樋口監督は「私も60周年で」と切り出し、大きな拍手を浴びる。「そんな歳になってしまったのか…と呆然とします」と話した樋口監督は「平成ガメラの1作目は『年寄りの言うことは聞かないぜ!』みたいな気持ちで作っていたけれど、あっという間に追い越されてしまった。僕も若さが欲しいです」とコメントし、笑いを誘う。「先輩たちが作ったもの、僕が作ったのもも含めて、もう一匹の尻尾の生えた怪獣と比べると、実家も変わり不憫なところも含めて『育ちのいいやつとは違うぜ!』という感じがあって」と冒頭ではゴジラの名前を出さずに解説し、「こういったところがガメラの魅力!」と強調し、大きな拍手を浴びていた。
「小学生の時に『ガメラ』を劇場で観ました」と話した小椋は、「当時は、まさか映画の業界に入るとは思っていない時(笑)。こういう映画もあるんだと思っていたのに、業界に入って50年。まさか子どものころに観に行った映画の修復を担当することになるとは思っていなかったので、感慨深いです」としみじみしていた。

次のトークイベントにも参加予定という観客を会場に多く見つけ笑顔を見せていた
次のトークイベントにも参加予定という観客を会場に多く見つけ笑顔を見せていた

監修に携わった感想を訊かれると「最初の感想は『小椋さんがいる!』でした」と興奮気味に語った樋口監督。「小椋さんはスターでした。メイキングが流行っていた時期に、伊丹(十三)さんのメイキングで“タイミング”はこうやるというのを解説していたのが小椋さん。めちゃくちゃダンディで、ピシッとしていて」と出会ったころの印象を語った樋口監督は、「埃があったらいけない部署だから、いつもピシッとした格好をしている。撮影でボロボロになった我々がイマジカに行く時は『すみません…』という感じでした」と苦笑い。「そういう人とついに一緒に仕事ができる!」とうれしく思ったそうで、「これまでも一緒に仕事をしたことはあるけれど、今回は同じ監修という仕事でご一緒させていただける。すごくうれしかったです」と目を輝かせた樋口監督。

小椋は作業をするにあたり「当時の撮影日誌と台本をひっくり返して見てみたけれど、撮影期間が1か月半くらいなんです。すごく短い。それだけの期間でこの作品を作ったというのはものすごいエネルギーがいった気がします」と解説。今回の作業では改めて作品に関しての”気づき”があったとし、「いわゆる”つぶし”が多い。“つぶし”というのは、例えば昼間の撮影(シーンを)夜に見せているというもの。今回の3作品は“つぶし”が多かったです。地獄岩に爆弾を仕掛けるシーンも、“つぶし”。ロケーションも少なくて、ほとんどセットでやっている。セットでまかなっちゃうのもすごいところだと改めて思いました」と撮影期間、撮影スタイルに関心していた。

小椋は樋口監督にとって「スターのような存在」だという
小椋は樋口監督にとって「スターのような存在」だという

“タイミング”という仕事を説明する上で「僕がやっていたのはフィルム時代の“タイミング”」とし、撮影状況の例を挙げて丁寧に説明。小椋が「撮影の条件に合わせて、監督さん、カメラマンさんの意図に沿って色を揃えていく。セットはライトでコントロールできるけれど、外の撮影ではできない。そういうところを揃えていく作業です」とわかりやすく伝えると、「揃わないんですよね…」と力を込めた樋口監督の言葉から“タイミング”という作業の難しさが伝わってくる。続けて樋口監督は「ハリウッドは1日中晴れていたりするけれど、日本では雲が入っちゃったとなっても待てない。(待つことで)夕方になってしまったら、(揃えるのが)もっと大変になる。色温度を調節する。微妙な色合い。それを魔法を使って直してくれます。『直ってる!』ってなると同時に、(魔法で直してもらえるなら)無理してよかったんだって思います(笑)」とタイミング作業完了までの流れを解説し、魔法があるなら、夜に撮影しても直してもらえたかも…と悔しがり、笑いを誘う場面もあった。

当時の撮影日誌をもとに作業をすることは樋口監督にとってとても特別な体験だった模様。「撮影の記録がすべて残っている。昔はこういうふうに撮っていたのか…と当時の書類から大先輩が撮影した映画が自分が撮っていたかのように勘違いします(笑)」とニコニコ。「日誌に書いてあることを想像してみると、なんでこんな面倒なことをやるんだろうってびっくりするくらい、“合成”が少ない」と話した樋口監督。“合成”とは、別々の素材を合成することだそうで「全部生で合成している。撮ったフィルムを巻き戻してやっている。いまはリスクが大きいからやらせてもらえない。でも、それが一番画質がよくなる方法だからやるんです」と力説。合成を確認するポイントは「フィルムのエッジナンバーを見ること」と語った樋口監督は「『ゴジラの逆襲』までは生合成が多い」とし「当時、大映はまだお金をかけられないところもあって。試行錯誤みたいなものが修復作業で見えてきました。フィルムを通してタイムトラベルができたし、とても勉強になりました!」とうれしそうに報告していた。

“タイミング”という仕事について詳しく解説
“タイミング”という仕事について詳しく解説

白黒だからこそ気をつけたことについて小椋は「以前のBlu-rayは黒がちょっと浮いている。紛れて見えにくいところがあります。当時はプリントからテレシネに変換してブルーレイを作っていたけれど、出ないところは出なかった。今回はオリジナルのネガから引っ張り出せたので情報量もかなりあった。トシオくんが手のひらに落ちるところとか、黒のディテール、トシオくんとバックの黒がわかるようになりました」と4KのBlu-rayとの違いについて丁寧に解説し、「重量感、艶も出て、ガメラの甲羅の重量感が出ています!」と注目ポイントも明かした。

樋口監督は3作品の見どころを訊かれると、藤山浩ニなど役者の魅力に加えて、シリーズを通して変化する役者の役柄にまで言及し、シリーズを愛しているからこそわかる細かな指摘で観客の笑いを誘う。「藤山さんのガメラ以上のバトル(笑)も楽しんでいただきつつ、バルゴンのつぶらな瞳。あれ?という顔が愛らしいです!」とニヤニヤしていた。

笑顔を見せる樋口監督
笑顔を見せる樋口監督

最後の挨拶で小椋はガメラの魅力は「子どもにやさしくて、子どもを助けるのが魅力だと思っています」と語り、樋口監督は「ある意味、チャレンジャー!」と回答。「すでに10年前から先行しているスターがいて」とゴジラの存在に触れた樋口監督は「どうやったら勝てるのか。チャレンジしてやっていたというのが当時の記録からもわかります。そういう作り方も含めて『こうでないといけない』というのがないノールールなところで作られている。すべてのガメラを通して、なんでもありなところが実は魅力です!」とガメラ愛をたっぷりと語り、「続きは次の回で!」と次の回での舞台挨拶でもたっぷりと語ること、さらに「内容が被らないように話す予定」と、ほのめかしながら大きな拍手に包まれながらステージをあとにした。


取材・文/タナカシノブ