山崎貴監督が分析する、J・キャメロン監督が“誰もが失敗すると思う題材”を成功させてきた秘訣「予想をはるかに超える」【「アバター」最新作公開記念特別連載】
「キャメロン監督は、みんなが失敗すると思った題材をすべて成功させてきた」
――最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』にどんなことを期待していますか?
山崎「映像面では、HFRで火がどのくらい現実的に描かれているかですね。火はすごい早さで変形するので、3Dと馴染みがよくないんですよ。48fpsだと炎のエッジが担保された状態で、うまく空間から切り取られているんじゃないでしょうか。またトレーラーを観ると、キャラクターの表情のクオリティがもう一段上がっているように感じました。いろんな人たちが、様々な想いを抱えていることが表情から伝わってくる。より繊細になったパフォーマンスキャプチャが、物語をより強めているんじゃないかと期待しています。ストーリー面では、この世界を憎むアッシュ族の登場で新たな三つ巴の構図になりそうなので、そこでなにが起こるのか楽しみですね。同時に地球も追い詰められているので、トレーラーで描かれている、マスクなしで生きられるようになったスパイダーを通し共存の方向に向かっていくのかもしれません。ドラマ面でも信頼できるキャメロン監督なので、全5作という大河ドラマにしただけはある世界を見せてくれると思います」
――それでは、「アバター」シリーズ一番の魅力はなんだと思いますか?
山崎「やはり誰も行ったことのない世界に連れて行ってくれるところですね。おそらくキャメロン監督は、皆をパンドラに連れて行きたいんだと思います。旅行に行ってその場で景色を見るのと同じ感覚で、パンドラでの出来事を実際に目の前で見ているように体験してもらいたいんでしょう。最新の映像技術も、物語への没入感を高めるためになにが必要かにフォーカスして取り入れている。だから観る側も『自分はパンドラにいるんだ』と潜在意識で感じてしまうんです。とても正しい使い方ですね。ただしHFRひとつとっても、フレーム数が倍になるのでその分のレンダリングが必要になります。これら最新技術をすべて取り入れ映画を作りあげるのは、すごい苦労だったと思います。それを乗り越え作り続けているキャメロン監督には本当に頭が下がります」
――最後に、山崎監督にとってジェームズ・キャメロン監督とはどんな存在なのでしょう。
山崎「キャメロン監督がVFXクルーの時代から、低予算とは思えないVFXを作るおもしろい人間がいると当時の雑誌で読んでいたので、監督デビュー前から知っていたんですよ。それが『ターミネーター』でスターダムにのし上がり、人気監督になっていきました。そんな姿を見たことが監督を目指したきっかけでもあるので、一方的に尊敬の念を抱いています。キャメロン監督が本当にすごいと思うところは、売れ線を狙うのではなく、誰もいないところに行き皆をそこに呼び寄せることができることだと思います。
『タイタニック』の時に、誰でも知っている船が沈没する物語をどうやっておもしろい映画にするんだろうと思っていました。しかし結果は、最後にカタルシスが押し寄せるキャメロン監督らしい作品になっていました。『アバター』も最初にビジュアルを目にした時に『青いナヴィに感情移入できるだろうか?』と心配でしたが、予想をはるかに超える作品でした。最初はみんなが失敗するんじゃないかと思うような難しい題材を選んで、それを全部成功させてきた。毎回それだからすごいですよ。そんなキャメロン監督が『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でなにを見せてくれるのか、いまからワクワクしています」
取材・文/神武団四郎

