山崎貴監督が分析する、J・キャメロン監督が“誰もが失敗すると思う題材”を成功させてきた秘訣「予想をはるかに超える」【「アバター」最新作公開記念特別連載】
「キャメロン監督は最高の技術者でありながら、それをすべて物語を語るために使っている」
――ディズニープラスではシリーズのメイキングドキュメンタリー、「炎と水―メイキング・オブ・アバター」なども配信されていますが、現場の様子を観て感じたことや発見はありましたか?
山崎「ワイヤーで吊ったカメラを自由に操るスパイダーカムを応用した、アイライン・システムを使っていました。3メートル近いナヴィと一緒に行動する人間の少年、スパイダーの視点を担保するため、キャプチャ用に撮った俳優たちの顔の映像をワイヤーでナヴィの頭の高さにセットしたモニターに映すんです。しかもナヴィの動きに合わせて、自由にモニターを移動させることができる。方法としては理にかなっていますが、視点の目安のために高価な機材を使っていたので驚きました。表現したいものに対しては、惜しみなく予算を使っていますね。もっともキャメロン監督は『アビス』の時にキャストの表情が見える水中マスク作りに取り組んで優秀な水中マスクを開発してしまうなど、映画のためにこの世にない技術を作り出してきた人ですから(笑)。普通なら無理だと諦めるようなところも妥協しない姿勢は尊敬します」
――現場での俳優やクルーとのやり取りなどはどう映りましたか?
山崎「技術を重視する人なのに、物語に対して真剣に向き合っていると感じました。すべての技術を、語りたい物語を伝えるために使っている。技術的な方向に行ってしまう監督もいれば、技術は気にせず物語にフォーカスする監督もいますが、キャメロン監督は最高の技術者でありながら、それをすべて物語に向けているところは見習いたいですね。おそらく現場では厳しい人だと思いますが、あらゆる困難を乗り越えて正しいと思ったことをやり通す人なんでしょう」
――本シリーズはキャメロン監督のオリジナルストーリーですが、物語作家としてキャメロン監督をどう見ていますか?
山崎「どんな観客も共感させるところがすごいですね。キャメロン監督の作品は、そこで起こる出来事がどれも切実なんですよ。見たこともない風習や文化、考え方を持った人たちのお話なのに、それに対して『そうだよな』と納得できる物語を作ることができる。普遍的な骨組みのうえに新しい要素を付け加えながら物語を作っているから、世界中の人から信頼されているんだと思います」
――エネルギー問題、環境問題など現実と地続きの設定はいかがでしょう?
山崎「地球とは違う世界観で話が進むので忘れがちですが、観たあとに現実とリンクしていたと気づかされるんです。声高に『自然を大切に!』と叫ぶ映画だとお説教のようで鼻につきますが、『アバター』のような形であれば『自然を大切にしなきゃいけない』という気持ちが自然にわき起こる。道徳的なこともエンタメのなかで心躍らせながら伝えれば、一時でも道徳的な人間になれるという忍ばせ方。それが非常にうまいキャメロン監督は、人類が古来から紡ぎ上げてきた寓話という技法の優秀な継承者だと思います」

