標高4250mの塩湖に豪華絢爛な宮殿、世界遺産、巨大井戸まで…『落下の王国』の映像美を実現したインドの名所をたどる
規格外の巨大井戸、ヒンドゥーとイスラムが調和する都城
●スケールはインド最大級、チャンド・バオリの階段井戸
勇者の一人、ダーウィンと彼の相棒で猿のウォレスに待ち受ける悲劇は、ラージャスターン州の州都ジャイプル近郊のアブハネリ村にあるチャンド・バオリの階段井戸で撮影。水面まで通じる階段が設置された井戸は、乾燥した地域が多いインドでは一般的なもの。なかでも9世紀に造られたチャンド・バオリの階段井戸は、13層にわたる階段の総数が3500段、深さは約30mと巨大である。
壁面に階段がびっしりとめぐらされた景観は、直線的で幾何学的なデザインの大がかりな舞台装置のようにも見える。すべての階段に黒い衣装を着たオウディアスの兵たちが続々と集まり、ダーウィンを追い詰めていく様がスリリングだ。かつてこの古代の井戸はほとんど知られていない穴場だったが、本作公開後はボリウッド映画のロケ地にもたびたび使われるようになり、インド旅行のガイドツアーに組み込まれるほどの人気スポットとなった。
●壮麗な都市遺跡、世界遺産のファテープル・シークリー
次々と現れるオウディアスの黒い兵から逃れようと勇者たちが駆け込んだ先は、ウッタル・プラデーシュ州の都市アーグラ郊外にある世界遺産、ファテープル・シークリー。イスラム教徒でありながら、イスラムとヒンドゥー両文化の融合を目指していたムガル帝国第3代アクバル帝が、ヒンドゥー教徒の皇妃との間にもうけた皇子の誕生を記念して建設した都城だ。帝が好んだ赤砂岩の建築群で構成された城跡で、建物の配列、構造、細部にいたるまでヒンドゥー様式とイスラム様式が見事に調和しているのが特徴。子宝に恵まれる聖地としても知られている。
本作の撮影にあたって正式に撮影許可を取っていたものの、宗教施設での撮影を望まない地元のイスラム教徒コミュニティから妨害を受けるという一幕もあったとか。爆発物の扱いに長けたルイジが敵兵に包囲された際に、敵を巻き込んで建物ごと自爆するシーンでは、ファテープル・シークリー内の宮廷地区にある皇帝の私的な謁見のための建物、ディーワーネ・ハース(内謁殿)がロケ地に選ばれている。もちろん、さすがのターセム監督も本物の建物を粉々にするわけにはいかず、爆破には縮小サイズの模型が使われた。
このほか、2013年に「ラージャスターンの丘陵城塞群」として世界遺産に登録されたアンベール城や、象が泳ぐシーンを撮ったニコバル諸島、「月の砂漠」と呼ばれるラダック地方などインド国内の美しい場所が数多く登場。さらに、南アフリカ、ナミビア、フィジー、インドネシアのバリ島、イタリア、ドイツ…とロケ地は世界中に広がっている。
CGをほとんど使用せず、すばらしいロケ地の数々が持つ本物のパワーとファンタジックな物語を鮮やかに融合させたターセム入魂の『落下の王国』。監督とは『ザ・セル』や『白雪姫と鏡の女王』(12)などでもタッグを組んだ世界的アートディレクター、石岡瑛子が手掛けた色鮮やかでインパクトのある衣装も大きな見どころ。さらに今回のリマスター版には、劇場公開版ではカットされたシーンも追加されている。17年の時を超えてスクリーンに蘇った美の世界をワンカット、ワンカット、心ゆくまで堪能してほしい。
文/石塚圭子
