ファン特派員が聞いた、細田守監督の原動力と『果てしなきスカーレット』の革新「大きな愛を描けると気づいた」
「スカーレットは、これまでの僕の作品とはまったく違う目的意識を持った主人公」
――美術のお話がありましたが、大内さんからはスカーレットの描写について質問です。
大内さん「僕はいま大学生で、メディア学部で映像や音響を学んでいます。本作の予告映像を何度も見返していると、主人公であるスカーレットを正面から映し出している描写がとても印象的です。『時をかける少女』で主人公が走っているシーンや、『サマーウォーズ』で主人公が『よろしくお願いします!』と叫ぶシーンなど、これまでの監督作における名シーンでは横から登場人物を映す描写も多かったように感じるのですが、そういった点でのこだわりやこれまでと変えた部分があればお聞きしたいです」
細田監督「映画はどのような撮り方をしてもいいものだと思いますが、実はその奥底にはコンセプトが隠れていたりします。そこに気づくのは、さすがメディア学部で学んでいる学生さんですね。例えば、日本の映像作品では、右から左方向へ向かっていると、“進んでいる”という印象を与え、左から右へ向かっていると、“帰ってくる”という印象を与えることになります。そのように、映像力学によっていろいろな場面を掘り下げることもできます。
たしかにスカーレットの場合、“縦方向”の描写が色濃く出ているかもしれません。スカーレットは復讐者であって、これまでの僕の作品とはまったく違う目的意識を持った主人公です。描いたことのない復讐者の主人公をどのように表現して、どのように観客の皆さんに受け止めてほしいか。そういった想いが、スカーレットの描写にも反映されていると思います。そして物語が進み、スカーレットの心に変化が生まれるにつれて、撮り方にも変化が生まれているはず。ぜひその点にも注目して観ていただけたら、うれしいです」
大内さん「とても楽しみです!スカーレットが、復讐を成功させるために戦い続ける理由。そして彼女が愛について知ることができるのだろうかと、すごく気になっています」
――スカーレットは、これまでの監督作の登場人物のなかでも目にしたことがない表情を見せる主人公で、復讐者である彼女がどう変化していくかという点が本作の大きな見どころです。インタビュー前には、臼井さんも「スカーレットが、どのような愛を見つけていくか気になっている」とお話ししていましたね。
臼井さん「これまでも師弟愛や家族愛などいろいろな形の愛を描かれてきた細田監督ですが、ストレートに愛をメインテーマとして描く作品はなかったのかなという気もしていて。監督が愛をどのように表現されるのか、とても楽しみにしています」
細田監督「そうなんですよね。これまでの映画で僕は、おそらく“愛”というセリフを明確に使ったことはないと思うんです。本作の予告編やポスターには『愛を知りたい』という言葉が出てきますが、本編でも一度、ある人による“愛”というセリフが出てきます」
臼井さん&大橋さん&大内さん「楽しみです!」
細田監督「現世だと、堂々と“愛”というのはちょっと言いづらかったりするじゃないですか。でも本作ならば、“愛”という言葉を口にしてもいいかなと思ったんですね。今回は、生と死が混じり合う≪死者の国≫を舞台にしています。≪死者の国≫と聞くと恐ろしい世界を想像するかもしれませんが、そういった極限の世界だからこそ、“愛”や“生きる”ということがはっきりと浮かび上がる。≪死者の国≫をテーマにすることで大きな愛を描けるというのは、僕自身もおもしろい発見でした」
大橋さん「大きなチャレンジをした本作を経て、制作前と後で、細田監督ご自身も変化したことはありますか?」
細田監督「今回は新しいルックを作りたいと思って、映画づくりに臨んできました。試行錯誤を繰り返し、『観客の皆さんが受け入れてくれるのだろうか』と不安な想いをしながら取り組んでいましたが、すでに観ていただいた方には『とても新鮮だった』などたくさんのよい反響をいただくことができて、いまは少しホッとしているところです。小さなことを積み重ねがら、新しく、おもしろいアニメーションの表現を追求してきたので、皆さんに存分に楽しんでいただけたらうれしいです」
大橋さん「細田監督がいつも新しいことにチャレンジしている姿を見て、私自身、いつも勇気づけられています。今回お話を伺えてとてもうれしいです」
細田監督「ありがとうございます。制作過程はいつも不安のなかを進んでいるような気持ちでいますが、なにかを変えていかないと『停滞しているのではないか』『楽をしているのではないか』という想いが湧いてくるんですね。自己更新プログラムではないですが、勇気を持って変化を遂げていかないといけないなと思っています」
取材・文/成田おり枝

