ファン特派員が聞いた、細田守監督の原動力と『果てしなきスカーレット』の革新「大きな愛を描けると気づいた」
「昔の人が残したものに目を向けると、たくさんの発見があります」
――「ハムレット」という古典をモチーフにした本作の内容について伺いたいというのが、大橋さんです。
大橋さん「私は『バケモノの子』が大好きで、劇団四季のミュージカル版も5回観に行きました」
細田監督「本当ですか!ありがとうございます」
大橋さん「『バケモノの子』は、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』がモチーフになっていました。細田監督は古典の持つ力を大事にしながら、現代を生きる私たちの心に響く物語を届けてくれますが、監督のインスピレーションの源について教えてください」
細田監督「僕は、名作や古典に弱くて(笑)。『バケモノの子』の『白鯨』だけでなく、『竜とそばかすの姫』では『美女と野獣』をモチーフにしています。今回は16世紀に書かれたシェイクスピアの『ハムレット』や14世紀に書かれたダンテの『神曲』をモチーフにしていますが、それらがいまでも読み継がれていると思うと、当時といまではなにが変わり、一方で時代を経ても変わらないものってなんだろう…と思うんです。どちらも現代を生きる人が読んでも『わかる』というものがあって、そういった部分に人間が本質的に抱いている気持ちだったり、いつまでも残っていく理由があるのではないかと。
筒井康隆先生による『時をかける少女』が刊行されたのは、1967年のことです。2006年にアニメ化した際には、原作が書かれた40年前とはいろいろな常識が変わりながらも、それでいて変わらないものを活かしながら作品に臨みました。同じように、400年前に書かれた『ハムレット』のすばらしい部分を本作にも活かせられたらと思っていました」
大橋さん「今回も時代を経ても変わらない、人間のすばらしさが描かれている作品なのですね。すごく楽しみです」
細田監督「ついつい僕らは昔よりもいまのほうが進化していたり、いろいろなことを知っているような気持ちになるものですが、ギリシャの哲学者や中国の思想家の本を読むと、いまよりももっと人間について考えているなと思うことがあって。そうすると僕たちは大切なことを忘れているのではないか、なにか見失っているのではないかと、現代を疑うことになります。昔の人が残したものを見ると、本当にたくさんの発見があります。美術もそうで、例えば、東京国立博物館にある長谷川等伯の松林図屏風だって、400年前のものとはとても思えません。美術って、昔のほうが進んでいたのではないかと感じるくらいです」

