『時をかける少女』から19年、最新作『果てしなきスカーレット』までのスタジオ地図のヒロイン像の変遷をたどる
「絆」を紡ぎ直すヒロイン
『未来のミライ』(18)では、さらにユニークなヒロインが登場する。主人公・くんちゃんの妹、赤ん坊のミライちゃんである。彼女は、未来からやってきた中学生の姿の妹として、4歳の兄の前に現れる。
妹が生まれたことで両親の愛を奪われたと感じ、赤ちゃん返りを起こすくんちゃん。ミライちゃんは、そんな彼を時空を超えた旅へと誘うナビゲーターだ。くんちゃんは、幼い日の母や、若き日の曽祖父と出会い、自分が連綿と続く「家族の歴史(=環)」の一部であることを知る。ミライちゃんは、主人公に兄としての自覚を促し、家族の絆を未来へとつなぐ役割を果たした。
そして2021年、コロナ禍を経てメタバースの活用がより加速し、仮想世界が現実味を帯びた時代に公開されたのが『竜とそばかすの姫』だ。ヒロインのすずは、第1章の「日常の中の成長」というテーマに回帰しつつ、極めて現代的な課題を背負わされている。
幼いころに経験した母の死がトラウマとなり、現実世界では大好きな歌を歌えない。しかし、全世界50億人が集う仮想世界<U>では、ベルというアバターとして自己を解放し、歌姫として世界的な人気を得る。この「現実=すず」と「仮想=ベル」の二面性は、現代を生きる我々の姿そのものだ。
当初、彼女は仮想世界での名声にアイデンティティを求めていた。だが、<U>で忌み嫌われる謎の存在である竜と出会い、その正体である少年の恵が現実世界で深刻な暴力の危機に瀕していることを知る。物語のクライマックス、すずはベルの“仮面”を脱ぎ捨て、現実のすずの姿を全世界にさらし、トラウマを乗り越えて「他者」を救うために歌う。それは、仮想世界での人気(=私)のためではなく、現実世界で傷つく誰か(=他者)のために勇気を振り絞る、選択の瞬間であった。ネットの誹謗中傷という現代的な痛みに対し、現実を生きる強さで立ち向かったのだ。
「復讐」と「生」の新地平
そして、最新作『果てしなきスカーレット』のヒロイン、スカーレットは、これまでのヒロイン像とは一線を画し、我々観客の前に現れた。物語の舞台は、これまでの日常や仮想世界とは異なり、“死者の国”という過酷な世界。そして彼女を突き動かす原動力は、成長や絆ではなく、父を殺された「復讐」である。
幼少期、心優しい国王である父親の前では、純真無垢で子どもらしい一面を見せていたスカーレット。しかし、確執のある母や叔父の裏切り、そして敬愛する父の死によって、彼女が子どもらしくいられる時間は無残にも奪われた。
「復讐」を胸に誓い、人を信じられず、“強く生きなければならなかった”スカーレット。だが、その根底にある信念に真っすぐであるという一点においては、真琴や夏希、すずたちと通底する、スタジオ地図作品のヒロインが持つ「一貫した軸」を感じさせる。
これまでのヒロインたちが「生」の世界で他者と出会い、困難を乗り越えてきたのに対し、スカーレットは“死者の国”という最も過酷な状況からスタートする。そんな彼女が、青年・聖と出会い、共に“死者の国”で旅をするなかで、その凍てついた心にどのような変化が訪れるのか。「復讐」という目的の先に、彼女がなにを見いだすのかに注目してほしい。
常に「困難な現実に直面し、自らの意志で“選択”し、前へ進む」という普遍的な女性の強さを描いてきたスタジオ地図。『果てしなきスカーレット』は、その軸を受け継ぎながらも、復讐と死という最もダークなモチーフを携え、新たなリーダー像をも提示する。スカーレットが選び取る「生」の軌跡を、劇場で見届けてほしい。
文/阿部裕華

