倍賞千恵子&木村拓哉、山田洋次監督91作目『TOKYOタクシー』で見せた“挑戦”と“素顔”「2人でお芝居ができて本当によかった」
「山田監督から『もう1本撮るよ』と呼んでいただけた。それだけで現場に赴く理由になりました」(木村)
――倍賞さんは「男はつらいよ」シリーズの“さくらさん”から、今回は“すみれさん”を演じることになりました。先ほど「これまで演じたことがないような役」というお話がありましたが、山田監督から新鮮な役どころを任せられた感想について教えてください。
倍賞「山田さんからは、衣装合わせの時から、挑戦的な衣装、挑戦的なメイクと、何度も『挑戦的』だと言われていました。私も『よし、挑戦するぞ!』と思いながら、作品に入って。すみれさんはネイルをやっている人なので、爪も挑戦的。いろいろな種類やデザインを見ながら、ネイルも選んでいきました。思えばさくらさんではない時でも、これまでの山田さんの作品で私は牛小屋で作業をしていたりするので(笑)、映画のなかでマニキュアをすること自体、挑戦的なことでした。最初は暗示のように『挑戦的』と頭に思い浮かべていましたが、車の中で木村くんとお芝居をしているうちにスーッと役に入ることができて、気づけばそのこともすっかり忘れてしまっていました(笑)」
――松竹のラインナップ発表会で山田監督は、「今回は平凡な人になった木村拓哉さんを見たい」とお話ししていました。『武士の一分』(06)から19年ぶりに山田組に戻ってきた木村さんですが、監督からそういった役柄のオファーが届いた感想はいかがでしたか?
木村「山田監督が、宇佐美浩二として自分を必要としてくれたことだけで、僕にとって現場に赴く十分な理由になりました。どんな役、どんな衣装、どんなストーリーであれ、監督が『もう1本撮るよ』と言い、そこに呼んでいただけるのであれば、その場に留まっている意味はないなと思いました。本作は『パリタクシー』というフランス映画をもとにしていますが、舞台を東京に移して、どのような作品をつくりたがっているのかと思いながら、山田監督の姿を拝見していて。その想いに近づきたいという一心でした。
タクシー車内のシーンは、LEDウォールに囲まれたなかで撮影をしています。照明部さんが“ここではどのような車窓が映り、太陽はどれくらいの光なのか”と調整をしている間、僕らは車内でずっとスタンバイをしているんですが、そこでは浩二でもない、すみれでもない、僕と倍賞さんとしてのお話をさせていただくことができました。『この作品が終わったら、どんな感じなの?』『これが終わったら、警察学校の教官になる予定です』なんて普通の会話をしたり、僕が『そうですね。あはは!』と笑ったりしていると、その様子を見ていた山田監督が『それだよ!いまのだよ!いまのいいね!』と喜んでくれたりして。僕は、『いまのいいねと言われても、素の自分なんですけど』と思ったりして(笑)」
――山田監督は、まさに木村さんの素顔の魅力を捉えたいと感じていたのですね。
木村「山田監督は、とにかくアンテナの感度がすごくて。そうやって常に、僕たちのあらゆる瞬間を見ていてくれるんです。山田監督は一応ステッキを使われているんですが、撮影が始まって『いや、そうじゃないんだよ』と僕らになにかを伝えに来てくださる時は、杖を持っていながらも、それが地面についていないんです(笑)」
倍賞「あはは!思い出しちゃった!」
――ものすごくエネルギッシュですね。
木村「杖の先が、地面から浮いちゃっているんですよね(笑)。山田監督は、携帯で例えるなら5G並の感度。そして映画づくりに対してのモチベーションの高さを、常に感じさせてくださる方。また現場にいらっしゃる山田組の方々からは、映画をつくるのが本当に好きだということがひしひしと伝わってきます。そういった環境で仕事をさせていただき、ものすごく光栄でした」
